第4話 水神様の彼

「『僕が原因』って、つまりその……?なんだ?『雲だ』ってどういうことだ」

「そのまんまの意味さあ、僕は雲そのもの。つまりここで祀ってる水神だよ。やったね、ほら、神だよ、神」

 あぐらをかく少年は、ほいほいと体を左右に揺らしている。一樹はじとっとそれを眺めた。


 水神様の神社があることは知っている、それがこの西山の麓にあることも。

 古くから耕作を営んできたこの町は、水が枯れぬよう溢れぬようと祈ってきたのだ。普段の生活に使う水も、ほぼ全て神社近くの川を使っている。


「にわかには信じられないな。神様っぽいことでも見なきゃ」

 パチン、と指を鳴らす。

「その言葉を待ってたのだよ!」

 ”雲”は笑顔のまま首をがくんと垂らした。眉間のしわが増え、静かに両手のひらで地面に触れる。

 何も起こらない。しかし少年は目を固く閉じ、一切の動きを止めている。数秒待って、一樹は足を伸ばして座りなおした。十数秒待って、芝生にうつぶせで寝っ転がった。……何も起こらない。


 少年が耳を澄ますように首をかしげる。木の葉がざわざわと涼やかに鳴り、風がどこからか若葉を連れ来て、鼻をかすめた、雨のにおいが。

(……雨?)


 途端、地割れのような低い音が響く。 一樹は弾かれたように身を起こした。

 少年が、かっ、と目を見開いた。


「──おいで」


 芝生が裂ける。水が噴き出す。それは地面から出てきたとは思えないほど澄んでいて、青空を反射しガラスのように輝いた。


「水の流れを変えたんだ。山の地下水の、ね」


 一樹は思わず見惚れてしまっていた。ずぶ濡れになって透けたTシャツの袖をまくり、吹き出している水を撫でるように触れると、少年が小さく微笑んだ。

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