第3話「村づくりの第一歩」
朝の光が森を照らし、鳥たちの声が川辺にこだました。
俺とエリナは昨夜の焚き火の残りを囲みながら、簡単な朝食を取っていた。木の実と草を煮たスープに、
「ねえ、リオさん」
「ん?」
「ここに……私たちの居場所を作れると思いますか?」
エリナの瞳は不安と希望の狭間で揺れていた。まだ十代半ばの少女が、居場所を追われてたった一人で森をさまよったのだ。その不安は計り知れないだろう。
「作れるさ。……いや、作るんだ」
俺は力を込めて言った。
「俺は追放された。君も居場所を失った。でも、だからこそ、新しい居場所を自分たちの手で築ける」
エリナは一瞬きょとんとした後、ふわりと微笑んだ。その笑顔に、胸の奥が温かくなる。
午前中、俺たちは草地へと向かった。昨日見つけた見晴らしのいい丘。柔らかい黒土と川の近さ、日当たりの良さ。こここそが拠点にふさわしいと確信していた。
「まずは畑を広げて、作物を安定させたいな」
「でも、住む家も必要ですよね。雨風をしのげる場所が……」
「確かに。じゃあ今日は、家づくりを始めよう」
そう決めると、俺は《創耕》の力を試した。地面に手をつけて集中すると、根や草が絡み合い、仮の柵のように立ち上がる。エリナは目を輝かせた。
「すごい……これなら木材を切り出さなくても、家の骨組みにできます!」
「だが強度はまだ足りない。木材も合わせて使おう」
森に入り、太さのある枝を集める。俺が根を操って土台を固定し、エリナが枝を紐で結びつけていく。最初はぎこちなかったが、二人で力を合わせるうちに、形になっていった。
「わぁ……小屋の形になってきました!」
「ここが俺たちの家になるんだな」
太陽が傾く頃には、粗末ながらも屋根付きの小屋が出来上がった。土と木の匂いが鼻をくすぐり、胸がじんわりと熱くなる。
「ねえ、リオさん」
家の中で焚き火を囲みながら、エリナが小さく声をかけてきた。
「今日一日で……本当に、居場所ができた気がします」
彼女の頬はほんのり赤く、炎に照らされて柔らかく輝いていた。
「ここなら、誰にも邪魔されずに生きられる」
「そうだな。俺も、ここを守る」
その言葉に、エリナはうれしそうに微笑んだ。だが次の瞬間、彼女はふと目を伏せた。
「でも……私、役に立ててるでしょうか。追い出されただけの私が、足を引っ張ってないか不安で……」
俺は首を振った。
「そんなことはない。エリナがいてくれるだけで、俺は孤独じゃない。……それだけで十分だ」
エリナの目が潤み、肩が小さく震えた。彼女はそっと手を伸ばし、俺の袖をつかんだ。
「ありがとう……」
その夜。小屋の外は静かで、川のせせらぎだけが響いていた。
焚き火の残り火を見つめながら、俺は思った。
――追放された俺が、こうして家を持ち、仲間を得た。
昨日までとはまるで違う世界だ。
だが胸の奥には、確かな実感があった。
「……きっと、ここから始まるんだ」
眠りに落ちる直前、ふと森の奥から獣の遠吠えが聞こえた。狼ではない。もっと大きく、低い響き。
エリナも気づいたのか、小さく体を震わせた。
「リオさん……?」
「大丈夫。俺が守る」
そう言い切ったが、内心では緊張が走っていた。
未知の脅威が、この森にはまだ潜んでいる。
そして俺たちの小さな居場所が、再び試される時はそう遠くないだろう――。
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