第24話「虚空の律、大陸の果て」
◇黒い亀裂
火山を鎮めてから幾日。
大陸の果てに近づくにつれ、空は黒く裂け、星々さえ飲み込まれていた。
その裂け目からは音もなく風が吹き、草木は立ち枯れ、人々は恐怖に声を失っていた。
「……ここが、虚空」
アリアが矢を握りしめる。尾が強張り、耳が震えていた。
ミラは薬袋を胸に抱え、声を震わせた。
「空気が薄い……生き物が息をする場所じゃない……」
セレナは石板を掲げ、線を刻む手を止めた。
「符が書けない。墨が宙に消える……虚空は“無”を強制する」
胸の祠が静かに軋む。
滞り、渇き、溢れ、忘却、岩、冠、火――祀った拍すべてが震え、虚空に引き寄せられていた。
◇虚空の村
裂け目の手前に、かつて村だった廃墟があった。
壁は影に浸食され、井戸は底がなく、声を出しても反響が返らない。
唯一残っていた老婆が俺たちを迎え、虚ろな目で言った。
「虚空は、すべてを忘れさせる。
名を呼んでも、己を思い出せない。
――等流師よ、祠ごと飲まれてしまうぞ」
俺は頷き、胸に手を当てた。
「だからこそ祀る。虚空すら、巡りに変えてみせる」
◇裂け目の試練
大陸の果て、黒い裂け目の前。
その奥は底知れぬ闇で、光も音もすべてを呑み込んでいた。
『我は虚空。名も拍もいらぬ。
祀られるくらいなら、祠ごと消してやろう』
低い声が響いた瞬間、祠が凍るように冷えた。
滞りも渇きも、溢れも忘却も、岩も冠も火も――すべてが虚ろに解かれそうになる。
「やめろ……!」
俺は膝をつき、必死に胸を抱えた。
◇仲間の叫び
「レオン!」
アリアが叫ぶ。「お前が消えるなら、私も一緒に消える!」
「違う!」ミラが涙を流す。「消えさせない! 祠があるから私たちは歩けた!」
「虚空は“無”じゃない」セレナが血を符に垂らす。「“器の裏側”だ! 巡りを裏から支えてる!」
マエラが貝笛を吹き、潮の唄を重ねた。
「虚空は怖くない! だって声が届いてる!」
四人の拍が祠に流れ込み、虚ろを押し返した。
◇虚空の祀り
俺は祠を開いた。
虚空を否定しない。
“無”であることを、そのまま置き場に迎え入れる。
滞りは流れを作り、渇きは巡りを求め、溢れは輪を描き、忘却は思い出を際立たせ、岩は支えとなり、冠は頂を示し、火は命を燃やす。
――虚空は、それらすべての「余白」だった。
祠に最後の空間が生まれ、虚空の律が静かに収まる。
裂け目が閉じ、黒い雲が晴れていった。
大陸の果てに、初めて朝日が昇った。
◇終わりと始まり
村人たちは影から解き放たれ、泣きながら空を仰いだ。
「光だ……! 百年ぶりの光だ!」
胸の祠は完全に静かだった。
すべての律が巡り、器が満ちていた。
女神の声が最後に降りる。
『よくぞ祀った。汝は大陸の律を一つに結んだ。
等流師よ――これからは汝自身が“器”となれ。』
俺は仲間を見回し、微笑んだ。
「旅は終わった。でも……巡りは続いていく。俺たちが次の器になるんだ」
アリアが笑い、ミラが涙を拭き、セレナが頷き、マエラが笛を吹いた。
大陸に、新しい拍が響き渡った。
(大団円・第一部 完)
追放された俺、神々と美少女に囲まれて最強無双 ― 村人スキルで世界を変える 妙原奇天/KITEN Myohara @okitashizuka_
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