@Nekonokage

第1話

どこを見渡すも、海

太陽の光を反射して、キラキラと輝いている

自分たちで作ったマストが、風に揺られてはためく

この光景が日常になったのはいつからだろうか

そんなことを考えていると

長い黒髪から覗いた顔に、視界が遮られた

「ねぇ、聞いてる?」

その時初めて、自分が話しかけられていることを知った


「ああ、ごめん。聞いてなかった」

適当に返事すると、相手は眼を瞬かせた

しばらく考え込んだのち、頑張って話してたのにひどいなあ、と頬をつつく

自分は、無視していたことに罪悪感を感じて、されるがままになる

そんな自分が面白いのか、こちらを見てくすくすと笑った

彼女の名前はカップ

あだ名みたいなもので、本名は知らない


「あっちの方面に大きい島があったぞ!」

「あっちってどっちよ!方角で話して!」

わーきゃーと言いながら舵を切っている2人

短く切り揃えた髪の、元気一杯の彼は、キャプテンのナッツ

ボブカットにしている髪を死守しつつ、怒っている彼女は、航海士のハナビ

大雑把なナッツと慎重なハナビは、いつも衝突し合っている

そんな様子を見かねてか、カップは重たい腰を上げた

「それじゃ、ちょっと止めてくるね」

正反対な2人はいつも喧嘩をしているので、止めに入るカップも慣れたものだ

少し2人に言うだけで、すぐに喧嘩が止まった

「…カップを使うのは卑怯よ、ほんと」

「それだけは同感だな」

不貞腐れている2人をよそに、カップはわざとらしく声を上げた

「あー、あんなところに島があるー」

久々の上陸、それはすなわち、真水で風呂が入れると言うこと

こう言う時だけナッツとハナビは一致団結する

「マストよろしく」

「そっちは舵な」

一二言言葉を交わしただけで、すぐに行動に移す

小さく見えていたはずの島は、スピードを上げた船により段々と大きく見えてきた

その手腕にいつも通り舌を巻きつつ、ふと考える

4人で始めた航海生活も、もうそろそろ一年が経つ

今度留まる島に店があるなら、みんなでパーティーをするのもいいかもしれない

少し財布が寂しくなるが、みんなの喜ぶ顔が見れるならそれでいい

「そんなにお風呂入りたかったの?」

表情が緩んでいたためか、ニヤニヤとカップが茶化してきた

「やっぱりみんなお風呂好きだよねー。私も久々に入りたいなー」

わざとらしくチラチラとこちらを見るカップに、ため息が漏れる

「…温泉、お店があったらね」

「やったーっ!ゴチになりまーす!」

銭湯のお金奢ってくれるってー!なんて、カップは嬉々として2人に伝えに行った

2人の喜びようは、そりゃあもう異常なほどで

バカほど飛ばした船による酔いが覚めないまま

奢りが確定した自分の財布は、一気に寒くなった

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