頭か腹か
foxhanger
第1話
谷塚順平と大沢まさみは、アフリカ大陸、サブサハラにある某国首都の空港に降り立った。
順平は医師、まさみはNGO職員である。この国でのある調査のために、WHOから派遣されたのだ
順平は周囲を見渡して、ぽつりといった。
「変わらないな、10年前と……」
「もう内戦が終わってから、20年も経っているんですね、でもこの有様では」
RVの後部座席で、ふたりは語り合った。
荒れ果てた大地には、粗末な作りのバラックが建ち並んだスラム街がどこまでも拡がっている。首都とは名ばかりだ。
この国では、長年にわたる植民地支配から独立してからすぐ、カヤヤとムバキ、ふたつの種族のあいだで内戦が始まった。
ふたつの勢力がぶつかり合い、そのバックにある大国の思惑にも左右され、戦局は一進一退を繰り返した。
戦いが長引くにつれ、お互いの憎しみはより深くなった。街や村が焼かれ、ひとびとは住み慣れた場所を追われ、子供までが戦場に駆り出された。
ふたつの勢力が疲弊し、大国の介入が行われたところで、和平協定が結ばれ、新政府が発足した。だが、長期にわたる内戦でばらまかれた憎しみを解消するのは、まだまだ長い年月がかかるかと思われていた
「あのときと、変わらない」
まさみがこの国に興味を持ったきっかけは、数年前に見た動画だった。
内戦が続いて荒れ果てた悲惨な有様。飢えて、医者にもかかれない子供たち。この国をどうにか立て直さなくてはいけない。すでにNGOに勤務していたまさみにとって、それは悲願だった。
では、どうすればいいのだろうか?
道中、大きな工場の横を通り過ぎる。ボロボロの建物が建ち並ぶ中で、そこは不釣り合いなほど新しい。
「あれは……」
「ハイパーテインの、製造プラントだ」
「ここでも……」
終戦後、大国の援助で作られたものだ。
「これしかないのね……」
「仕方がない」
人類の難題を一気に解決するといわれた「夢の食材」、ハイパーテインが開発されたのは、21世紀も中盤にさしかかろうとする頃だった。
大気中の二酸化炭素の増加と、それがもたらした気候変動は、いよいよ深刻になりつつあった。
これまでの穀倉地帯が、ことごとく凶作に見舞われたのだ。異常熱波や干魃など
穀物の収量は低下し、穀物を餌にしている畜産も大打撃を受けた。
さらに、海水温の変化や度重なる乱獲で、海の漁獲高も大幅に減ったのだ。
あらゆる食料源が欠乏に瀕している。
食糧供給は不安定化し、とくに持たざる国での影響は大きかった。国際市場で食料を調達することも難しくなり、飢餓に見舞われ、社会情勢も不安定になってきた。
このままでは世界的な食糧危機、飢饉がやってくる
そんな危機感の中、救世主として登場したのが、ハイパーテインだった。
人間の生存に必要な栄養素を、これだけで賄えるのだ。
おもな材料は空気中の二酸化炭素である。二酸化炭素を触媒を通して重合させ、アミノ酸を作る。そこに様々な元素を添加することによって、人体に必要な栄養素をこれだけで賄える食材になるのだ。
そして、増粘剤を加えると、3Dプリンタで自在な形に成形できるのだ。それ自体は無味だが、どんな味もつけられる。
さらに、組成を変えることで食感も自在に変えられる。
世界各地に大規模工場が作られ、大量生産が可能になった。世界の大半の国で食糧自給が可能になったのだ。
やがて、環境問題や南北問題に敏感なひとたちが、ハイパーテインを推すようになった。
安く、環境に優しく、健康によい。
貧しい国々にも、豊かな国々の援助によってハイパーテインの工場が作られた
人類は、食糧問題から永久に解放されるだろう。そんな予想が世間を賑わせることになった。
しかし。
今から三年前、ある報告がなされると、風向きは一変した。
チンパンジーにハイパーテインのみを与え続けて育てた動物実験によると、ハイパーテインを長期間常食していた個体には、脳の特定部位に萎縮が起きていることが明らかになったのだ。
そこは、ヒトで言うなら、脳の言語を司る部位――ウェルニッケ野とブローカ野であると特定された。
「ハイパーテインを数年にわたって常食していると、脳の言語機能に障害を生じる可能性がある」
そんな警告がなされ、世界的に反ハイパーテイン運動が盛り上がった。
そして各国で、危険な食材であると判定され、人間に対する使用が禁止された
だが、飢餓に瀕した国への援助物資としてのハイパーテインは、なくすことができなかった。
貧しいひとびとにとっては、かけがえのない食材である。
「ヒトにはまだ有害性が証明されていない」という名目で、生産は続けられているのだが、しかし、疑念は払拭できない。
この工場では隣接するメガソーラーから送られてくる電力で、ほぼ自律してハイパーテインを製造できる。この国ではほぼ唯一の産業であると同時に、荒れ果てて金もないこの国の食糧供給を一手に担っているのだ。
ふたりはハイパーテインを常食していたひとびとの身体に起こった変化を調査するために、WHOから派遣されたチームの一員だ。
病院などで症例の検査と同時に、村人へフィールドワークを行う。これから向かう村も、その調査対象なのだ。
市街地を外れると、茶色い大地には、疎らに頼りなく伸びた灌木が生えているだけだ。
そもそも貧弱だったこの国の産業は、内戦で徹底的に破壊されたのだ。インフラはことごとく破壊され、耕作地には地雷と不発弾が埋まり、立ち入ることはできない。
内陸国なので漁業も存在しない。貧しいひとびとの食料は援助物資に頼るしかないのだ。
闇市では、肉でも果物でも、さまざまなものが並んでいるが、どれも、大半のひとは手が届かないほどの値段がつけられている。
結局のところ、高い食料を闇で手に入れられない貧困層は、ハイパーテインを食べるしかないのだ。
運転手の隣には、自動小銃を携えたボディガードが乗っている。
街中を走るときは、常に猛スピードで通り過ぎる。スピードを落とすと、賊に狙われかねないからだ。
政府はいまだに治安を維持できる力を持っていないのである。
「村へ直行しましょう。長居は無用です」
順平に言われて、運転手はRVを走らせた。
向こうから、ピックアップトラックが砂埃を上げてやってくる。
その荷台には、銃を構えた男が乗っている。
運転手は叫んだ。
「……こんなところで!」
武装強盗団だ。
この荒れ果てた国でも、武器だけは容易に手に入る。
男も女も、仕事を探すより、武器を取って賊になる方が手っ取り早いのだ。街にはこんなやつらがいっぱいいる。警察も無力で、やりたい放題だ。
強盗団は行く手を塞ぐ形でクルマを駐め、男は運転席から降りて「手を上げろ」と身振り手振りで要求してきた。
抵抗できるはずもない
運転手はRVを路肩に駐めた。そして3人はクルマを降りた。身ぐるみ剥がされるのを覚悟したが、そのとき
向こうから、クルマがやってくる。
ボロボロのトラックだ。駐まると、男が運転席から降りてくる。
クルマに乗っていたのは、真月健司だった。
健司は部族の生活史を研究するため、数年前からこの村に住み込み、フィールドワークをしている。順平たちとも顔見知りだ。
それもまたハイパーテインの影響を調べるプロジェクトの一環なのだが。
順平は「くるな」というジェスチャーをした。しかし健司は、歩みを止めない。
そして健司は、賊の頭目とおぼしき男に、奇妙な言葉で話しかけた。
カヤヤやムバキの言葉でも、宗主国だったヨーロッパの国の言葉でもない。
「……!」
男は自動小銃の構えを解き、にこやかな表情になった。
そして去っていった。
「もう、だいじょうぶです」
健司は順平たちに話しかけた。
彼がこの村に住み込んでいるのは、理由がある。
数年前から、この地方の近辺で、特殊な「ことば」が話されているという報告があった。
この国では、共通語として植民地時代の宗主国の言葉がつかわれ、部族はそれぞれ独自の言葉があるが、それらとは全く違うものだった。
単語などは流用されているが、文法が全く異なるものだった。そのため、どこからやってきたのかは、全く不明だった。
順平は健司に問うた。
「きみもこの村の言葉を、しゃべれるようになったのか」
「ああ」
「習得したのか」
「いや、最初はわけが分からなかったんだ。いくら聞いても、全く理解できない。でも、数ヶ月経ったら、自然に言葉が出てきた」
「この言葉が? どういうことだ?」
「じきに分かる……それより、村長が、きみらを歓迎したいそうだ」
この村は、カヤヤとムバキが混ざり合っている。それは服装で分かる。それぞれの民族衣装を身につけているからだ。
信じがたいことだ。たった数年で、あの激しい憎しみが消えるのだろうか。
しかし――。
目の前に広がる光景は、平穏そのものだ。
かれらは10年前まで、凄惨な争いを繰り広げていたはずなのに。
「このあたりは、内戦がいちばん熾烈だったところだ」
部族が入り交じり、戦線が何度も村を行き来し、そのたびに血を流し合った。その憎しみは容易に癒やしがたい――はずだった。
順平たちの前に、村人が集まっている。
しかし、いま目の当たりにしているみなは、穏やかな顔つきをしている。
数年前なら、こんなことはあり得なかったはずだ。
腑に落ちない点はある。
村人の皆は、奇妙な言葉を交わしている。
さっき健司が使った言葉だ。
「ボンガボンガ ブナチャキ」
「デヒミキ」
そんなように聞こえるが、かれらの言葉とは全く違った響きだ。
「なにを言ってるんだ」
全然分からないが、かれらの表情が和やかなのは、見て取れる。
「ようこそ、いらっしゃいました」
カヤヤ族の村長は旧宗主国の言葉で挨拶をした。
そして、歓迎の宴が催される。その食卓に上がったものも、すべてハイパーテインだった。
カヤヤも、ムバキもいる。お互いになんのしがらみもないように見えた。
大きな鍋の中で煮込まれた白い大きな塊が、ひとりずつ分けられた。
ハイパーテインだ。
つづいて、大きな皿に皿に載って、焼かれた肉のようなものが運ばれてきた。これもハイパーテインだろう。もはや天然の食材はどこにもない。
食べてみると、味は悪くない。多少食べても影響はないだろうが、どこか、ぞっとしないものを感じる。
この村の近くにも、ハイパーテインの工場がある。唯一の産業と言っていいだろう。
「戦争と飢餓、そしてハイパーテインによって、部族固有の食文化というのは、絶滅したんだろう
「そのかわり、飢餓からは解放されたんだろうが……いいのでしょうか」
「安全性に疑念があっても国民の腹を満たさなければ、という要求が先に立っているんだろう」
「頭より腹、か」
順平は嘆息した。
青空教室で、子供たちが授業を受けている。地理の授業のようだが、宗主国の言葉で行われている
子供たちは、ハイパーテイン世代と呼ばれている。
もはや生まれてこの方、ハイパーテイン以外の「自然の」食料を食べたことがないのだ。
「実力テストをやらせてみると、成績は上がっていると聞いている。政情が安定したからだろうな」
「それだけなのか」
「うむ……」
まさみは数年前に見た動画を思い出した。
村が焼かれている。無差別に砲弾が撃ち込まれ、血まみれの子供を抱いたムバキの女性が泣き叫んでいる。こんなことをしたやつらを許せない、と。
たしか、ここで撮られたはずだが。
目の前にいる女性は、穏やかな表情をしている。
「あなたが、あの母親、ですって?」
「はい」
「カヤヤのかれらに恨みはないのですか」
「昔のことは忘れているわけではありません。でも、この気持ち……あなたもきっとわかりますよ」
「どういうことなんだ」
訝る順平に、健司は説明する。
「この『ことば』を使うと、他者に対する攻撃性が減退してしまうようなんだよ」
すこし前から、かれらは独自の言語を使うようになっているという報告がなされた。
ふたつの違った言語を話す種族が接触することによって混合した言語が生み出されることは、知られている。
その場で意味が通じればいいと、ただ単語を並べただけなのがピジン、それが定着して母語として使われるようになり、ある程度整備された文法になったものがクレオールと呼ばれている。
「しかし」
健司は言った。
「かれらのしゃべる言語は、地球上に存在するどの民族の、どの言語にも似ていないんだよ」
その現象が報告されて以来、この「謎の言語」を人工知能によって分析するプロジェクトが進められていた。
しかし、その進捗は、はかばかしくなかった。
なぜだろうか。
おそらく、「文法」の構造が、他の言語とは違っているのかも知れない。
「そんなことが、あり得るのか」
「人間の言語の構造は、基本的に同じだと考えられている。人工知能は、基本的に既知のデータから推測する。全く違っているこの言語は、それではうまく解析できないのだろう」
健司は言った。
「おれはこの村に住み込んで、住民と同じもの――ハイパーテインを食べていた。それをずっと続けていたら、ある日突然『ことば』がしゃべれるようになったんだ。同時に、なんというか……気持ちが通じるような感覚を覚える。この村のひとびととは、種族を越えて、そういう『感覚』を共有しているんだ」
「なぜそうなった」
健司はしばし、考え込む。そして口を開いた。
「分かったことがある
「それは、どうして?」
まさみの問いに、健司は、笑みを浮かべて話し出した。
「きっかけは、トイレだった。はじめてこの村に来たとき、トイレを拝借して用を足したら、微妙に、その場所の、においが違っていたんだ。この村のひとびとは、ずっとハイパーテインしか食べていないことに気がついた。それで、腸内細菌に、その秘密があるのかとおもって、村人から検便を取ってみた。それを培養した結果だが……」
健司は言った。
「普通の人間の腸内では見られない種類の細菌が増えている。そして腸内細菌のバランスも変わっていることが、明らかになった。おそらくハイパーテインを常食すると、腸内の環境が変わるんだろう。それで腸内細菌叢(フロラ)もそれに影響される」
そして、
直接腸内から採取した細菌叢を人間の腸内と同じ環境に置き、培養する。そしてこいつを微弱な電位差を測定出来る装置にかけて、活動を測定してみる。情報を交換する機能とはどういったものか、研究してみたんだ」
「そして、おれがあの『ことば』を使ってるときは、腹部が反応したんだ」
健司はパソコンを立ち上げる。
「見てくれ。腸内に現れる電位差を測定した結果だ」
「!」
たしかに、ディスプレイには反応が示されている。標準語をしゃべっているときにはこの部位には反応はないが、「ことば」を使ったときだけ、特異な反応がみられるのである。
「これが『ことば』を紡ぎ出す仕組みである、と」
「いまの段階では断言できない、まだまだ、研究が必要だが」
まさみは言った。
「腸には神経が張り巡らされているよね。そこから、人間の神経系と一体化するというの?」
「ああ、こいつらは『考えて』るんだ」
健司の目が輝いた。
「腸内細菌叢は、電気信号や物質をつかってお互いに情報をやりとりしてる。要するに、脳と同じなんだ。ならば、その中で『ことば』が生まれたとしても、おかしくないかもしれない」
そして言った。
「『ことば』はどうして作られるのか、知っているか」
「さあ」
「知能が発達すれば『ことば』は自然に生まれる。かつてはそう素朴に考えられてきた。でも、違う。
単語の起源なら、そうだろう。しかし、その単語をつなぎ合わせていろいろな意味を持つ文章を作り出す――『文法』がどうしてできたのか、それには答えられない。鳥もチンパンジーも『文法』のある『ことば』は持っていないからだ」
「ふむ」
「そこで、こう考えることはできないだろうか。ヒト――ホモ・サピエンスの脳には、生まれながらに『ことば』――文法を紡ぎ出す仕組みが備わっているんだ。ヒトは『ことば』を覚えるんじゃない。鳥が空を飛んだり巣を作ったりするような、本能なんだよ。それは人間にしか備わっていない。チンパンジーは手話を教えても、単語を並べることしかできなかった。しかしヒトの子供は違う。母親は赤ん坊にろくに言葉を教えていない。しかし、じきにしゃべれるようになるのは、それだ」
順平は訝った。
「まさか……」
「腸内細菌叢は、かれらの言語野の活動を担っているんだ。つまりこの村のひとびとが使う『ことば』は、腸内で紡ぎ出されたものだ」
ハイパーテインを食べると、腸内細菌叢に変化が生ずる。通常の食事をとるひとびとの腸内ではあまり増えない種類の細菌が、異常に増えていた。
細菌叢は腸内でネットワークを作り、『知性』『意識』のようなものを作り出している。ヒトが脳内で「ことば」を作り出しているのと同じ仕組みが、腸内にあるのだ。ハイパーテインを常食するヒトは『腹』で考えるようになり、脳の役割は減る」
「なんということだ。脳の縮小は、原因ではなく、結果だったのだ」
今までの人間とは全く違う、誤解のないコミュニケーションが可能な「ことば」が生まれている。
健司は頷いた。
「ぼくはこの村人と同じように、食事をハイパーテインのみにした。1年くらい経った頃だろうか。しだいに、奇妙な体験をするようになったんだ。村人の考えが分かるんだ。それは『腹』から来ていることに気がついた。熱くなるのを感じるんだよ。きっと腸内細菌同士が、信号を出しあって共鳴してるんじゃないか」
まさみは言った。
「わたしは学生時代演劇をやっていた。そのときはよく、腹から声を出せ、と言われたのよ。ここのひとたちは、みんなそうなの」
「そうなるな」
健司は頷く。
「おれの腹から聞こえてくる『声』、それに耳を澄ませているうちに、『かれら』とわかり合えるようになった」
「それで、争いがなくなったのね」
「腹芸か」
混ぜっ返す順平に、健司は真顔で答える。
「いや、腹を割って、話し合うことができているんだよ。ひとびとは、ほんとうの意味でわかり合っている」」
健司は言った。
「しかし、それこそが、言語のほんとうの役割かもしれないよ。言語はそもそも、ヒトの個体――お互い違った存在同士がコミュニケーションをとるためにあったのではないか。しかしわたしたちが使ってきた『ことば』はそうとはいえなかった。仲間かそうでないか、敵味方を識別するために使われてきた。そして世界に分断と分断と混乱が生まれた。そのツケを払っているのが、いまなんだ」
「バベルの塔か」
「いままで、人類にとっての『ことば』は完全なものではなかった。『わかり合える』集団内部でしか意味が通らない内輪の符丁だった。そうではなく、真に『他者」とコミュニケーションをとるための言語を、われわれは持つことになる。そうなれば、われわれがずっと夢観ていた、世界のひとびとが真にコミュニケーションを取れる状況が実現するかもしれない」
「世界中の人類と、わかり合える日が……」
順平は言った。
「そのためには、われわれも、ハイパーテインを食うべきなんでしょうか。天然の食材を諦め、脳の萎縮を覚悟してまでも」
健司はそれには答えず、ニヤリと笑っている。
しかしそれは「持てる国」の住民の、贅沢な悩みと言えなくもない。
世界を見渡すなら、あちこちで戦争はいまだに続いている。家が焼かれ住み慣れた地は蹂躙され難民が生じ、あまつさえ、穀物の不作や不漁も常態になりつつあるのだ。
紛争の解決も、食糧危機も、喫緊の課題だと言われ続けて久しいが、対策は遅々として進まない。
ハイパーテインを切実に必要とするひとびとから、世界は変わっていくのだろうか。
頭か、腹か。
人類はいずれ、その選択を迫られることになるのかも知れない。
(了)
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