或る冒険者たちの夜話
藤久保あるゑ
第1話 酒場にて(1)
宵闇迫るとある街、冒険者たちで賑わう酒場の中、行き交う客や給仕の間を縫うように、小さな人影が歩いていく。その背丈は十代前半の子どもくらいで、顔だちも幼かったが、それはあくまで人間側から彼を見たときの感想に過ぎない。彼の種族の視点で云えば、背丈は平均男性よりやや低いくらい、顔だちは二十歳そこそこの青年、といったところか。もっとも、その中性的な容貌は、たまに女性に間違われることもあったが。
背丈よりもやや長い、古びたローブの裾を引きずりながら、彼は二階へと続く階段を上ってゆく。そこは一階と比べると随分狭かったが、下階の喧噪もここまでは届かないため、彼はもっぱらこちらを好んで使っていた。二階の最奥の張り出した空間に、年季の入った木製の円卓(ルビ:テーブル)と、六人分の椅子が置かれている。そこにはまだ、誰も座っていない。
「あれ、ボクが一番か。しまったな…」
思いがけず早く来てしまったことを若干後悔しながら、彼は椅子の一つに腰を下ろした。頬杖をつきながら、床に届かぬ足を所在なげにぷらぷらと揺らしている。眼下には、探索帰りの冒険者たちでごった返している一階の広間を、給仕たちが慌ただしく駆け回っているのが見える。
暇なので先に一杯やってようかと給仕を呼びつけようとしたとき、ふと、円卓の上に一枚の薄青色の花弁が落ちてきた。それは、彼が付けている髪飾りから落ちてきたものであった。見ると、髪飾りにあしらわれている青い花が少し枯れている。最近忙しくて交換するのサボってたからかなぁと、花弁をいじりながら考えていた彼は、そういえば、枯らす前にこまめに交換しろと口うるさく言われていたことを、今更のように思い出した。
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