第2話 目を奪われた第一印象

「ふわぁ~……」


 学校の廊下を進みながら、所構わず大きく開けた口から欠伸がこぼれる。


 朝は夜型人間には辛い時間帯だ。


 なぜ学校はこんなに早い時間から始まるのだろう。


 解決することのない疑問にぶつかりながら寝ぼけ眼で教室に入ると、


「おはよう、天桐君」


 眼鏡をかけた青年の声が耳に入った。


「ふわぁ……洸平こうへい……おはよ……」

「あはは、今日も眠たそうだね」

「いつものことだよ……。そっちは今日も一番乗りか?」

「クラス委員だからね」

「さすがクラス委員、頭が上がらねぇーや」


 と言いながら、彼の前の席にある机の上にカバンを置いた。


「んんッー!」


 両腕を上げてグッと伸びをしていると、音を立てることなく隣の席に“少女”が座った。


「今日は間に合ったみたいだな」


 少女は、首にかけていたヘッドホンをカバンの中にしまった。


「………………」

「はぁ……。相変わらずクールだなー。なあ、美智留みちる?」

冷川さめかわさん、おはよう」

「……おはよ」


 ボリュームを抑えた小さな声が聞こえた。


 ――なんで俺は毎回無視なんだ……?


「――おぉーい、天桐てんどうーっ」

「ん? なんだー?」


 廊下側の一番後ろの席の男子生徒に呼ばれて顔を向けると、


「お客さんだぞー」

「客?」


 すると、息を切らした少女が扉から顔を出した。


「はぁ……はぁ……」

「? 優莉ゆうりじゃん」


 咳から立って息を切らす妹の前に来ると、


「はぁ……はぁ……」

「どした、お前? 朝からそんなに汗かいて……あ」


 空は感慨深い表情でポンッと肩に手を置いた。


「そうか、そうか……そんなにお兄ちゃんに会いたかったんだな……っ」

「いや……違うから……っ」

「ちぇっ、違うのかよ」

「なんで悔しがってるの、このバカ兄は」


 優莉は呼吸を整えながら、肩にかけたカバンからあるものを出した。


「これ、忘れて行ったでしょ」

「? ああぁー」


 それは二段式の弁当箱だった。


「感謝してよね? お母さんに頼まれてわざわざ持ってきてあげたんだから」


 と言って弁当箱を渡すと、腰に手を当てぷくぅと頬を膨らませる。


 そんなマンガの妹キャラがするような素振りをスルーし、空はお弁当を掲げる。


「サンキュー! これがなかったら昼は干からびてたところだっ」

「そんなに喜んでもらえるのなら、届けた甲斐があったかな。じゃあ、お兄ちゃん」

「んー? ……その手はなんだ?」


 広げられた手のひらを見せられ、眉をひそめる。


「お弁当を届けたんだから、ねっ?♪」

「っ……わかったよ、ほれ」


 財布から出したジュース代の百円玉二枚を渋々渡した。


「まいどあり♪」


 そんなやり取りをしていると、


「皆さーん、席についてくださーい。ホームルームが始まりまーす」


 低身長のゆるふわ癒し系教師こと、担任の佐藤さとうはなの一声で、クラスメイトたちが一斉に席に戻り始めた。


「やばっ、早く行かなきゃ……って、お兄ちゃん?」

「…………っ」


 空の瞳は、教室に入ってくる銀髪の少女に向けられていた。


「うわぁっ、綺麗……っ」

「…………あぁ」


 優莉の言う通り、銀色の髪をなびかせる彼女は…………綺麗だった。

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