第44話
翌朝、俺は広々としたベッドで目を覚ました。
「むぅ、もう朝か?」
「サクラ、どうして俺のベッドで寝ているんだ?」
「小さい事を気にするなお前様・・・くぁ、我は眠いかもうちょっと寝る」
サクラはそう言って、布団を頭から被って丸まってしまった。
隣の部屋で寝ているはずのサクラが俺のベッドに潜り込んでいるのは気になるが、それよりもナナの様子が気になった。
俺はお城の使用人に用意してもらった部屋着を脱ぎ、いつもの服に着替えて部屋を出た。
昨日の記憶を頼りに城内を進む。城の中は飾り付けが進み、まるでパーティーでも行われるかのような内装になっていた。
(何か妙だな)
そう思いながらも、俺はナナの部屋の前に立つ。
覚悟を決めノックすると、中からナナが顔を出した。
「わ、旦那様! どうしたでありますか?」
「おはようナナ。様子が気になってな、大丈夫か?」
「はい! この通りピンピンしているでありますよ!」
ナナは扉を大きく開き、俺を室内に招き入れた。
ナナの部屋はどこか暗く、ナナの外見年齢よりも幼く見えた。
「旦那様も心配性でありますねぇ」
「大事な仲間だからな。それに、昨日の話はそう思わせるだけの重みがあった」
「あぁ。まぁ、旦那様が気にすることじゃないでありますよ」
何故だかナナとの間に距離を感じる。
だが昨日の発言でその溝がさらに深まってしまったのを感じる。
「あ、そうだ! 朝ごはん食べに行きましょう旦那様! 主様とリーリャンを連れて食堂に来て欲しいであります! うちのコックは料理上手でありますからね!」
「あ、あぁ分かった。連れてくるよ」
「ならまた後で会いましょう旦那様!」
ナナから半ば強制的に部屋から追い出される。
俺は渋々部屋に戻り、毛布に包まるサクラを引きずり起こした。
そして隣の部屋で寝ていたリーリャンも起こし、ナナに言われた通りに食堂に向かう。
食堂はがらんとしており、人の気配は一つもしていなかった。ただ唯一キッチンからは料理の音が響いており、暖かな朝食のいい匂いが立ち込めていた。
「お、みんないるでありますね」
「ナナ」
ナナは綺麗なドレスに着替えており、俺達の前でくるりと回転した。
「この家にいる間はこうしてくれと、使用人達に頼まれたであります。動きにくいでありますが、些細な問題でありますね」
ナナは笑顔でそう言うと、平然とキッチンの中に入っていった。
そしてお盆の上に乗った人数分のトーストと、何かのスープを持って出てきた。
「もらってきたでありますよ、早速食べるであります!」
「久しぶりのまともな食事だ、こんなに嬉しいことはないな」
「美味そうだな、我は肉が食べたいんだがあるか?」
「料理長に聞けばきっともらえるでありますよ!」
「よっしゃ!」
サクラは尻尾を振りながらキッチンを超え、料理長の元に向かった。
俺達はトーストとスープを飲みながら、静寂に包まれた食堂の中で静かに時を過ごす。
「そういえば、君の父上にはどうやって話をつけるつもりだ?」
突然リーリャンが突っ込んだ質問をする。ナナは動きを止め、しばらく考え込む。
「決めさせるなら早めの方がいい、今日来るんだろう? そのお客様とやらは」
「そうでありますね、早めに言った方がいいでありますね・・・」
だがそう語るナナの顔は浮かなく、どうしても不安が拭いきれないと言った様子だった。
そんなナナの頭を、肉を持ったサクラが軽く小突く。
「馬鹿者、我らを連れて行け。どうなっても守ってやる」
「主様・・・」
「どう転ぼうが我の知った事ではないが、大事な仲間の為なら腕づくでも認めさせてやるさ! な、お前様!」
「あぁ、そうだな」
サクラにつられ、ナナが顔をあげる。
俺にも、サクラの様な強引さが必要なのかもしれない。ナナの顔には、笑顔が咲いていた。
「僕も力になろう、役に立てそうな事があったらなんでも言ってくれ」
「リーリャン、主様、旦那様、ありがとうであります! ナナ、食事が終わったら話に向かってみるであります!」
「我らも連れていけよ!」
「もちろんであります!」
その時、食堂の扉が勢いよく開け放たれた。
そこには大慌ての使用人がいて、ナナの姿を見るなり駆け寄ってくる。
「ナナ様、使者が到着致しました!」
「使者・・・エルフのエルでありますか?」
「はい。予定よりも早く到着された模様で、当主様も慌てております」
「分かった。このまま監視と報告を、ナナも行くであります」
「はっ!」
使用人はナナに深く頭を下げ、食堂から出ていく。
ナナはスープを飲み干し、席を勢いよく立った。
「早速イレギュラー発生でありますね」
「魔王化の方法を握る奴ら、少し我も気になるなぁ」
「魔王化の方法、聞き出すだけ聞き出せないかな?」
「とにかく行ってみよう」
俺達は揃って食堂を後にし、ナナの案内で城の中を歩く。ナナはこの広大な城の中を全て把握しているのか、サクサクと進み大広間に出た。
そこには、背の低い緑髪の女エルフが一人椅子に座って待っていた。
「ん? ベルフェゴール卿では無い?」
「早すぎたようでありますね。・・・ナナはナナ・ベルフェゴール、ベルフェゴール卿の娘であります」
「これはどうもご丁寧に。私はエル、どうぞよろしく」
緑髪のエルフは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。そして、不思議そうにナナの後ろにいる俺達を見つめた。
「ほう、珍しい方々をお供にしていらっしゃる」
「どういう意味でありますか?」
「失礼、私達は強力なギフトを持つ者に声を掛けているのですが・・・そこのお方から強力なギフトを感じるのです」
「俺?」
俺は首を傾げ、エルを見つめ返す。
エルはゆったりとした足取りで俺に近付き、握手を求めてくる。
「もし宜しければ、どういうギフトか伺っても?」
「えっと、俺のギフトは【反転】っていうギフトで。触れた物を反転させるギフトだ」
「ほう、それだけ?」
「それだけって・・・?」
「・・・力の使い方をまだ理解しておられない様子。もしよければ、私達が貴方を強くして差し上げましょうか?」
エルはニタリと笑う。
その間にナナが割って入る。
「ちょっと待つであります! 今回は別の用事で来ているのでありましょう?」
「おっとそうでした、これはまた失礼を。今回は別の要件でしたね」
「当主が来るまで大人しく待っていて欲しいであります」
「ふふふ、つい良いギフトを持つ者には声を掛けてしまうのです。ご容赦を」
俺はエルの言った力の使い方と言う言葉が強く引っかかる。まるで、俺のギフトにはまだ隠された使い道があるかの様な言い方だ。
その時、大広間の扉が開く。
「待たせたな、エル殿」
そこには昨日のローブを身にまとったベルフェゴール卿が立っていた。
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