第34話
リーリャンは人の姿に戻り、青く光るヴェールの核を握り締める。核は手のひらにはすっぽり収まる程度のサイズで、微かに拍動している。
「これが核で間違いないね、地底湖も元の静けさを取り戻している」
リーリャンは手のひらの中で核を転がしながら、指で核を突く。
「何か言ったらどう?」
『・・・』
「もしかしたら核だけでは喋れないのかも?」
「そしたらナナの水筒に入れるであります!」
ナナが水筒の蓋を開け、リーリャンはその水筒の中に核を放り込む。一瞬の静寂が流れると同時に、水筒の中から目玉が俺達を覗き込んだ。
『屈辱』
「そう言うなって、命までは取らないんだからさ」
『我は不死、死なずである』
「魔王は基本的にこの世の理から外れ不老ではあるが、不死って話は聞いた事がないな?」
『我はスライム、スライムは死なず』
「待て、我はスライムなんぞ何匹も殺して来たぞ?」
『スライムの意識は全て繋がっている。我死のうとも新たなスライムが我となる』
「それじゃあ不死って言うか、無限に残機があるみたいな話か。不死とはまた違うな」
ヴェールは俺の言葉に目を丸くする。瞳孔を大きくし、そのまま水筒の奥に引っ込んでしまった。
『我は、不死・・・のはずだ』
「あんまり虐めないの。ところでさっきの質問に答えてくれよ、不死魔王ヴェール?」
『再度投げかけよ』
「魔王になった時の事を、どうやったらなれるかとか。教えて欲しい」
『魔王化はこの世の理から外れる行為。この世ならざる力を持つ者にのみ与えられた特権』
「・・・もう少し簡単に出来る?」
ヴェールは数秒無言になり、再度水筒の入口に目玉が出てくる。
『強き者、選ばれる』
「選ばれる? 誰に?」
『それは』
その瞬間、洞窟の外から轟音が響き渡る。それと同時に、獅子にも似た叫び声。
俺の体は硬直し、あの夜の事が思い起こされる。
「・・・嘘だろ?」
「なんだ今のは!」
「外であります!」
サクラとナナが洞窟の外に向かって走り出す。その二人を飛び越え、リーリャンが炎の翼で洞窟の外まで飛んで行った。
俺も置いていかれないようにヴェールの入った水筒を持ち、洞窟の外に駆け出した。
激しい動悸と目眩にも似た視界不良、足元は流れ落ちる水で覚束無いがなんとか洞窟の外に出た。
「そんな、レニィの街が!」
リーリャンの悲痛な叫びが聞こえる。
遠くに見えるレニィの街には、赤々とした炎が燃え盛っていた。雨の中でもその炎は消えず、ただの火事ではないことを証明していた。
「クソッ!」
「待てリーリャン!」
リーリャンは俺の静止も聞かず、炎の鳥となってレニィの街に向かって飛んで行った。
俺はフラフラとサクラの傍に行く。
「お前様のあの反応、なにか心当たりが?」
「・・・もしかしたら、父上が来ているかもしれない」
「あの叫び声、この世のものとは思えんかったな」
「どうして・・・」
「馬車持ってきたでありますよ! 早く乗るであります!」
ナナが馬車を操縦し、俺達の側につける。
俺は差し出されたサクラの手をぎゅっと掴み、馬車を見上げた。
「逃げるか?」
サクラが優しい口調で問う。
俺は首を横に振った。
「リーリャンをほっとけない」
「よし、行くぞ!」
サクラは俺を馬車に引っ張りあげ、ナナが馬車を走らせる。燃え盛るレニィの街に向かって。
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