第33話

水柱から次々と発射される水のレーザーを、リーリャンは華麗な動きで避ける。


「俺達に狙いが来てないうちに目玉を探すぞ!」

「了解であります!」

『標的変更』


ヴェールがそう言うと水柱は回転し始め、水のレーザーは地底湖全体を切り刻み始める。角度を変えまるで回転鋸の様に洞窟の天井や壁を削り取っていく。サクラは飛び移る鍾乳石や岩が無くなったため、水中に落ちてしまった。


「サクラ!」

「我がいつ水中だと戦えんといった!」


サクラは見事な犬かきを使い、倒れてくる回転した水柱を避ける。


「目玉あったであります! あの一番奥の柱の中であります!」

「ナナ! そこに剣を投げろ!」

「了解であります主様!」


ナナはサクラの指示通り、思い切り大剣を投げ付ける。水柱と目玉を真っ二つにぶった切り、大剣は壁に突き刺さる。

だが切られた水柱と目玉はすぐに元に戻ってしまった。


『物理攻撃は無駄だ』

「それはどうかな!」


サクラは水中から飛び出し、壁に突き刺さったナナの大剣に飛び付く。そしてその大剣を足場に飛び出し、水柱の一部を目玉ごと切り取った。

切り取られた目玉は地上に打ち上げられ、目玉はサクラに踏み付けられる。


「焼け」

「はいはい! 【フレイム】!」


即座にリーリャンが駆け付け、目玉を炎で焼く。水分は一瞬で蒸発し、目玉は跡形もなくなった。


「・・・あっ! 殺してしまったか!? 我ったらうっかり!」

『我は不死魔王、死なずの魔王なり』


地底湖から声が聞こえる。大量に並び立つ水柱達に、次々と目玉が生え揃っていく。一瞬のうちに目玉は数百個の規模で増え、俺達をじっと見つめていた。


『死ね』

「来るぞ! 【反転】!」


俺達を見つめる目玉達から、一斉に水の弾幕が放たれる。俺の背後にみんなを集め、俺に集中する弾幕を全て反転させ撃ち返す。


「このっ! 【フレイムソード】!」


リーリャンが飛び出し、炎の斬撃を放ち水柱を断ち切る。切り倒された水柱から目玉達が水中に溢れ出し、また新たな水柱を形成し始める。


『圧を掛ける』


水柱からの弾幕が止み、数本の水柱が集まり始める。巨大な柱が数本立ち並び、俺達に向けて視線と言うなの照準を合わせる。


「ふん!」


サクラが地面を殴りつけ、地面から巨大な岩を引っ張り出す。


「岩じゃ防げない!」

「アホう! この中に隠れろ!」


サクラはリーリャンに怒鳴りながら岩を放り投げ、ぽっかりと空いた穴の中に身を投げた。

俺とナナも続き、最後にリーリャンが穴に飛び込んだ。

頭上では水のレーザーが何本も飛び交い、俺達が頭を覗かせた瞬間に撃ち抜こうとしている。


「どうするんだ!」

「落ち着け、この程度ピンチでもなんでもない」

「そうであります、大して焦る事ないであります」

「いや、俺は焦った方がいいと思うけど?」

「お前様まで・・・いいか、スライムの特徴を思い出せ」


俺はぼんやりとスライムの特徴を思い出す。確かどこかで聞いたはずだ。

俺のそんな様子を察したのか、サクラはため息をつきながら話し始める。


「スライムは核を潰さないと永遠に復活する」

「あぁそうだったな」

「それで我らは核らしき目玉を破壊したな?」

「したでありますね」

「でもヴェールは死んでいない」

「・・・つまり目玉は核じゃ無いって事かい?」

「リーリャン正解!」


サクラがリーリャンを指差す。

つまり本物のヴェールの核がどこかにあるという話だ。


『収束、掘削する』

「ん?」


ヴェールの声が響くと同時に、岩が削れるような音が響く。どうやら水のレーザーを束ねて地面ごと削り取っているようだ。このままでは俺達も真っ二つにされる。


「わわっ! 水が流れ込んできたであります!」

「落ち着け。我に作戦がある」

「サクラ、本当か?!」

「あぁ、まずはリーリャンを囮にする」

「・・・は!? 僕を!?」

「不死なんだから何とかしろ! そして弱点の核を探す。それを捕まえて勝利というわけだ」

「僕の不死だって万能じゃない! 再生には体力を使うし、使いすぎたら休止状態に入ってしばらく眠る!」


リーリャンはそう叫ぶ。つまりリーリャンの不死は有限というわけだ。俺はそれを踏まえ、サクラの代わりに作戦を考える。


「サクラ、核の目星がついてるんじゃないか?」

「むむ、ついてるにはついてるが・・・」

「教えてくれ、少しでも勝利の可能性を上げるために」

「分かった! 水に入った時に湖底にそれらしきものが見えた。だが推測、あくまで不確定。それが核でないなら攻撃する時に使ったリソースが無駄になる」

「なるほど・・・この中で何か提案がある奴は?」


俺達の中に沈黙が流れた。

地面を削り迫る水のレーザーと、俺達の隠れる穴に流れ込む大量の水。

その瞬間、リーリャンが手を挙げた。


「僕なら一人でその核を撃ち抜ける」

「本当か?」

「それには膨大な体力と、ヴェールに隙が欲しい」

「よし、じゃあ俺達で時間を稼ぐぞ」

「了解であります!」

「わかったぜお前様!」

「待てよ、本当にそれでいいのか? そんなに簡単に僕を信用していいのか?」

「言い出したのはリーリャンだろ、それに俺達は同じ敵を持つ仲間だ」

「核が違ったらその時はナナと主様で何とか脱出するであります」

「いいや、我は意地でも倒してみせるぞ」

「ぷっ、くくく。変な奴らだな!」


リーリャンはそう言うと、仄かに体が光り輝き始めた。


「じゃあ時間稼ぎ、頼んだよ!」

「任せろ! 最初は我からだ!」


サクラが最初に穴から飛び出した。レーザーは地面を削るのを止め、サクラに向かって分裂し飛んでいく。

それと同時にナナが飛び出し、洞窟の壁を蹴って自分の大剣を取りに行く。

ヴェールのレーザーは一瞬迷った様だが、ナナよりもサクラを脅威として判断した。全てのレーザーを引き付けながら、サクラは洞窟内を縦横無尽に駆け回る。


「よし、俺も!」


穴から飛び出そうとした瞬間、リーリャンの背後に小さな水柱が立った。その中には極小サイズの目玉が浮いており、リーリャンに狙いを定め水を圧縮していた。


「危ない!」

「っ!」


咄嗟にリーリャンの背後に回り込み、両手で水の弾幕を防ぐ。咄嗟だったこともあり反転を使えず、俺の両手には無数の小さな穴が空いた。

俺は足で目玉を蹴り上げ、穴から外に吹き飛ばす。


「頸動脈にでも当たれば死んでいた、感謝するよ! 離れていてくれよ!」


俺が穴から飛び出すと同時に、穴の中が発光する。そして炎が溢れ出し、穴の中から炎を纏った巨大な鳥が飛び立った。


『標的変更』

「させないであります!」


ナナが大剣で水柱を真っ二つに切り倒す。目玉は空中に吹き飛び、水面に叩き付けられ水に戻る。


『不死鳥の炎を喰らえ! 【不死鳥突撃フェニックスバーン】!』


リーリャンが水面に向かい、鋭い弓矢の様に突撃する。一瞬で水分が蒸発し、水にまるで穴が空くように一直線に湖底まで突き進む。

そして水が戻る直前何かを咥え、リーリャンは飛び上がった。


『取った!』

「よし! それが核だ!」


リーリャンの嘴には、青々と輝くヴェールの核が咥えられていた。

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