第29話
「リーリャン?」
「まぁ座りなよ、話はそれからだ」
俺達は席に着くと、店主らしき魔族が店の外に出て行った。
どうやらリーリャンが手を回していたらしい。
「まず一つ、君達のデートを邪魔して悪いね」
「デートだと知っていたのに邪魔したのか?」
「本当は邪魔するつもりはなかったさ、ただ僕にデートプランを聞いてきた魔族の子がするのかと思っていたからね」
「・・・なるほどな」
俺はポケットから紙を取り出す。これはナナが考えたデートプランだと思っていたが、どうやらリーリャンも一枚噛んでいたらしい。どうりでこの街に詳しいわけだ。
「二つめ、魔族の子がデートするもんだとばかり思っていたから無駄足を踏んだよ。宿に行けば魔王がいると思っていたが、魔族の子しかいなかったんだからね」
「ナナに何かしたのか?」
「特に何も、用事もないからここで待っていたのさ」
「それじゃあまるで我に用があるという口ぶりだな?」
「あぁ、君にある。魔王」
リーリャンは席から立ち上がり、厨房に足を踏み入れる。そして厨房の裏から出来たての料理を運んで、俺達のテーブルに並べた。
「これは?」
「好きに食べるといい、ランチタイムに邪魔させてもらうだけだ」
「俺は正直お前にいい感情を抱いていない、あまり一緒に食事したいとは思わない」
「・・・そうか」
リーリャンは少ししょんぼりした様子で、チキンの甘辛煮を手袋を付けて食べ始める。
「僕は質問したいのさ、どうやって魔王になったのかをね」
「どうしてそんな事を?」
「近々魔族と人間の間で戦争が起こると言われている、数や団結力で劣る魔族が人間に勝つには圧倒的な力が必要だ」
「待てよ、戦争だと? そんな話どこから出てきたんだ?」
「それは魔族の成り立ちに由来する」
リーリャンは手を拭きながら、次の料理を自分の近くに持ってくる。
「魔族は言わば人間と魔物の中間の存在、魔物の突然変異や進化によって人に近付いたものが魔族と言われている。エルフや獣人達の種族とは温厚な仲を築けているが、反魔物感情の高い人間達からは魔族も魔物と同一という見方が広く根深く植え付けられている」
「人と魔物の中間・・・どうりで人間っぽい見た目の奴が多いんだな」
「ルーツとなった魔物の力を使える魔族も多い。僕なんか分かりやすく、魔物時代の力を使えるしね」
「それで我に何の用だ? 何を求める?」
「教えてくれ、魔王と言うこの世の理から外れた存在になる方法を! 魔族存続の危機なんだ、君も魔族なら分かるだろう!」
「一つ、お前の様に教えてやろう。我は魔族じゃない」
サクラはそう言い放ち、豚の丸焼きに手を付けた。
「そ、そんな? 君は魔族じゃないのか? じゃあ一体・・・」
「我は魔物だ。昔の記憶は薄いが、それだけはハッキリしている」
「俺はそんな話聞いた事もないぞ?」
「別に聞かれんかったからな、いつからか人に化けれるようになっていたという話だ」
「そ、それでも魔王になれたんだろう? どうやってなったんだ!」
「・・・そこはあやふやだが、夢を見た記憶はある」
「夢?」
「大切な記憶だと思ったんだろう、夢を見た事は覚えている」
サクラはそう言いながら、豚の丸焼きを平らげた。
「我が覚えているのはそれだけよ」
「そんな・・・それだけじゃあなんの意味もない!」
「本当にそれだけなのか、サクラ」
「あぁ、お前様に誓って嘘は言わん」
「クソ! ここで何か手掛かりが掴めると思ったのに・・・!」
「どうして魔王にそこまで拘る? お前の魂胆を教えろ、リーリャン」
「僕は・・・圧倒的な力が欲しい! 魔王になれば力が手に入る、それさえあれば何にも屈しない、何にも脅かされない! そういう力が欲しいんだ!」
「ふむ・・・なら聞いてみればいいんじゃあないか?」
「く・・・」
サクラの指摘でリーリャンが呻く。
「どうせ掴んでいるんだろう? 不死魔王に関して」
「・・・この街の近くに地底湖がある、そこ周辺で見掛けたと言う情報が集まった」
「次の雨は?」
「今は乾季だ、明日を逃せば当分雨は降らない」
「なら決定だ、明日そこに行くぞお前様。もちろんリーリャンも連れてな」
「・・・僕も連れていくのか」
「聞きたいだろう、魔王から直接話を」
「・・・分かった、明日迎えに行く。宿で全員揃って待っていろ」
リーリャンはそう言って席を立つ。
俺はそんなリーリャンの腕を掴んだ。
「仕事はちゃんとしてくれたようだな」
「当たり前だ、僕は自分の仕事に誇りを持っている」
「報酬だ、持っていけ」
「・・・相場キッチリか」
リーリャンは残念そうな顔をして、店を出て行こうとした。しかし足を止め、振り返った。
「僕は自分の仕事に誇りを持っている」
「?」
「デートプランに関して修正案だ、今この街の地下で格闘技大会が行われている。魔王でもそこなら楽しめるはずだろう」
「本当か!?」
「ここを真っ直ぐ行けば地下に降りられる、せいぜい楽しいデートをな」
食いつくサクラを尻目に、リーリャンは店を出る。それと入れ替わりに店主が店に戻り、厨房に立った。
「格闘技大会だとよお前様! 行ってみよう!」
「それよりも腹が減ったよ、残りを食べてから向かおう」
「おう、そうだな!」
俺達はリーリャンが置いていった料理に手を付けた。どれもこれも独特な味付けで、如何にも中華というような辛味のある味付けだった。
腹を膨れさせた俺達は店を出て、早速地下に降りる階段を見つけた。
「ここか?」
「熱気と歓声を感じる! 早く行こうお前様!」
「あんまりはしゃぐな、行くぞ」
俺達は階段を降り、街の地下へと向かっていった。
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