第28話
翌朝俺は早朝ナナに叩き起され、用意された服に着替えた後部屋を追い出された。
部屋を追い出された俺は仕方なく部屋の前で座り込み、しばらく中の様子を伺った。
「こ、こんなフリフリ我には似合わん!」
「まぁまぁ一度着てみてくださいよ、主様にお似合いな様にナナが選んだものでありますから」
「や、やめろ! 変なところに手を回すな!」
「それに盗み聞きしている旦那様にもみっともない抵抗、聞かれてるでありますよ?」
「盗み聞きじゃねぇよ! 正当な座り込み抗議だ!」
「聞くな馬鹿者!」
数分経つと扉が開き、見違える程綺麗になったサクラがそこに立っていた。
根元は銀だが端に行く程桜色に変わる独特な髪色も、ハツラツとした顔にあどけなさを残した化粧も、赤い特注品のドレスも、どれもこれも魅力的に見えた。
「旦那様の好みを反映しつつ、主様の魅力を失わない様に調整した奇跡のバランスであります」
「おぉ・・・」
「旦那様、何か一言を」
「すげぇ・・・」
「うぅ〜〜〜!!!」
サクラは顔を真っ赤にし、その場にうずくまってしまった。
「辱められている! 我は今この世で最も屈辱的な格好をさせられている!」
「そんな事ないでありますよ、お綺麗でありますよ」
「我は魔王だぞ!? こんなフリフリのドレスに紅にクルクルの髪など似合わんに決まっている!」
「全ての女の子は可愛くあるべきであります、それに困っている人を助けるのは勇者の務めでありますからね」
「困ってなど・・・!」
ナナがサクラの手を掴み、俺の手を握らせる。そして俺達を部屋の外に押し出し、俺のポケットに紙切れを入れる。
「じゃあ後は二人でごゆっくりと。旦那様はプランから外れないように気を付けるでありますよ」
「プランって?」
「その紙に全部書いてありますよ。とにかく従う事、道を逸れない事、主様を褒める事。この三点を守っていればなんとかなるであります」
ナナは俺達を宿の外に放り出し、手を振りながら見送った。
「ちゃんと楽しんでくるでありますよ〜」
俺達は二人、手を繋いだ状態で街の中に放り出された。サクラは顔を真っ赤にさせながら、小刻みにプルプルと震えている。
「まぁ、なんだ。とりあえず行くか?」
「・・・!」
「睨むなよ、ナナの奇行に付き合ってやろうじゃないか」
「うぅ・・・」
俺はポケットから紙を取り出す。中を開くと、デートの詳細なプランが書かれていた。
「まずは移動だ、しばらく歩くぞ」
「この靴歩きづらい・・・」
「背負おうか?」
「これ以上辱めないでくれ・・・」
俯いたままとぼとぼと歩くサクラの手を引きながら、俺は街の中を歩く。街ゆく人々は俺達の事を奇異の目で見るが、俺は気にせずサクラを連れて通りを横切る。いくつか通りをまたいだ先に、俺達の目的地があった。
「ここは高級店やお土産屋が立ち並ぶエリアらしい、確かにさっきの場所よりも服装が煌びやかな人が多い気がするな」
「確かに、ここなら少しマシな気はするな・・・」
「ええっと、ここの劇場で演劇を見る。だってさ、ご丁寧にチケットも挟んである」
「演劇・・・我は見た事がないな」
「ならいい経験だ。そろそろ開演時間だ、行こう」
俺はサクラの手を引き劇場に向かった。劇場の受付でチケットを渡し、中に入る。
これでもかと建物を詰め込んだ様な街に、こんなに広い劇場があるのかと驚いた。
席に着くと、すぐに演劇が始まった。演目は俺も幼い頃に聞かされた、英雄物語だった。
『ついに旅立ちの日だ! 僕はこの村を離れるよ!』
『こうして英雄は生まれた村を離れ、王都に向かいました』
演劇特有の迫力のあるセリフと、穏やかな声のナレーターが見るものの心を揺さぶる。
チラリとサクラの様子を見ると、初めて見る演劇に心を踊らせているように笑顔だった。
『あぁ、なんと言う! 僕の生まれた村が! 畑が、家が! 許さない、許さないぞ大悪魔め!』
『英雄・・・』
『父さん!』
特殊効果を使い、炎の中を歩く主人公を演出する。俺はその演劇の出来に感動していた。
観客達は父と子の永遠の別れに涙を流していた。だがサクラは、首を傾げ少し不思議そうな顔をしていた。
「なぁお前様、どうしてみんな泣いているのだ?」
「永遠の別れなんだ、当然涙も出る」
「でも我らは当事者じゃないだろう?」
「素敵な作品には、感情移入してしまうんだよ」
「ふ〜ん」
サクラは生返事をした後、劇場の端から炎が立ち上がる度に目を輝かせた。
どうにもサクラが楽しんでいるポイントはずれているようだったが、楽しんでくれているなら良かった。
『追い詰めたぞ大悪魔!』
『今よ、トドメを!』
『ぐぁぁぁぁぁぁ!』
演劇もクライマックス、主人公が宿敵の大悪魔を追い詰めトドメを刺すシーンだった。俺の知っている話と違いヒロインが追加されているが、脚本も上手く違和感のないように作られていた。
観客はみんな手を叩き主人公の活躍を称えている。だがサクラは一人神妙な面持ちをしていた。
「我ならあんな小僧に遅れは取らん」
「まぁ物語だからな、主人公が勝ってハッピーエンドだ」
「その後はどうなる?」
「その後って?」
「大悪魔を倒した後、どうやって帰還する? 大悪魔が従えていた悪魔達は? 焼かれた村はどうなる?」
「う〜ん、物語の向こう側は分からないな。考えた事もなかった」
「我は納得がいかん、物語はまだ続く。めくるめく激闘、大挙をなす挑戦者、飽くなき戦いの日々! それが人生じゃないのか」
「サクラは感性が豊かだな、食事でも取りながら聞かせてくれよ」
俺達は劇場を出て、しばらく道沿いに歩いた。
メモには食事を取ると書いてあり、店の指定までしてあった。
「ここか?」
「そのようだな」
この通りの端の方にひっそりと佇む、町中華の様なお店だった。
薄ら曇ったガラスの扉を開き、俺達は店内に入った。
「やぁ、デートは楽しんでいるかい?」
ガラガラの店内の一番奥に、リーリャンが座っていた。
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