第25話

少し横になるつもりが、すっかり眠りこけていたようだった。俺はベッドから体を起こし、サクラが開け放っていった窓から外を見る。


「もう日が落ちてる・・・旅の疲れが溜まってたのかな」

「ただいま〜!」


サクラが扉を破壊する勢いで開け放つ。その手には、両手いっぱいに食べ物を抱えていた。


「おかえりサクラ」

「なんだなんだお前様、ずっと眠っていたのか?」

「まぁな。ほっぺに血が付いてるぞ」


俺は立ち上がり、サクラの頬に付いた血液を拭き取る。予想はしていたが傷はなく、恐らく返り血である事が伺える。


「路地裏で数人に囲まれてな、骨がなくてガッカリしたぞ」

「そうか、それは今日の晩飯か?」

「あぁ! お前様とナナと食べようと思って買ってきたぞ!」

「ありがとう、いくつか貰うよ」

「ただいまでありま〜す!」


今度はナナが、開け放たれた窓から帰ってきた。


「どうして窓から?」

「どこも人が多くて、屋根の上を移動していたのでありますよ」

「なるほどな、サクラが晩飯買ってきてくれたってさ」

「やったー! いただくであります!」

「おう! 食え食え、ささやかながらの宴だ!」


俺達はサクラが持ってきた食料を囲み、小さな宴を開いた。レニィの街は旅してきた場所と食文化が違うのか、今まで食べた事の無いような味が多かった。だがどれも絶品で、俺達は三人で舌鼓を打った。


「いやぁ食った食った」

「主様、口元が汚れてるでありますよ」


ナナがサクラの口元を拭い綺麗にする。テーブルの上には包装紙や空っぽの小包が大量に積み重ねられている。部屋の中の備え付けのゴミ箱に詰め込み、俺はベッドに横になった。

日中眠っていたが、満腹になった事で再度眠気がやって来ていた。


「おいお前様、もっと詰めろ」

「え?」


俺が返事をする前に、サクラがベッドに入り込んで来た。尻で俺を押し、スペースを強引に作る。


「しまった、急いでいたからベッドが一つしかない・・・」

「尋問にはいい部屋だが、三人で泊まるにはちと手狭だな」

「ナナは床で寝るから大丈夫でありますよ」

「そういう問題じゃない。とりあえず部屋の移動が可能か聞いてくる」

「あぁ、宿の入口に団体が来ていたな。他の部屋は埋まっているだろうよ」

「ぐぬぬ・・・」


万策尽き、俺はベッドから降りる。


「とりあえずベッドは二人で使ってくれ、俺は床で寝る。幸い寝袋もあるしな」

「せっかくの宿だぞ!」

「そうであります! それに旦那様を床で眠らせて、ナナはベッドで休めなんて嫌であります!」

「じゃあこうしよう。俺とサクラが床で寝る、ナナがベッドだ」

「問題点結局変わってないでありますよね!?」

「我はふわふわのベッドで眠りたい!」

「お困りの様だね!」


突然窓際から声が聞こえる。

俺達の視線が集まると、リーリャンが窓から飛び込んで来た。


「僕、(かっこよく)参上!」

「帰れ!」

「何しに来たんでありますか?!」

「と、途中報告に・・・と言っても進展は何も無いけど」

「本当に何しに来たんだ?」

「ぐはっ!」


リーリャンはダメージを受けた様に振る舞うが、直ぐに気を取り直す。


「ところで、困っているんじゃないか?」

「我はベッドで眠りたい」

「ナナは主をベッドで眠らせたいであります」

「俺は・・・女性と眠るのは、ちょっと」

「は〜〜〜? 何今更言ってるんだお前様は! 旅の途中クソほど隣で寝てただろうが!」

「そりゃ寝袋がそれぞれあったからだろ!?」

「一緒の小屋で三年も暮らしていたのに何を今更!」

「ベッドは別だった!」

夫婦めおとの癖に、本当に何を言ってるんでありますか」

「厳密にはそれは認めてない!」

「違うんでありますか!?!?」

「ちょっと待ってくれ! 話を整理しようか!」


俺達はベッドの前に座るように指示される。リーリャンを前に、俺達は一列に並んで座った。


「じゃあまずは名前と簡単な略歴から聞こうか」

「俺はジハード、冒険者をやりながら魔王を倒して世界最強を証明しようとしている」

「我はサクラ、牙爪がそう魔王にしてコイツの番。同じく冒険者やりながら魔王をぶっ倒す旅をしている」

「ナナはナナであります。魔王討伐のお供としてお二人に着いて旅をしているであります、勇者であります」

「OK、ますます分からない事が増えたが良いだろう」


リーリャンは深呼吸を何度かし、テーブルに手を付いて大きく息を吐いた。


「じゃあ次に何で揉めているかを聞いていいか?」

「俺は床で寝る」

「我はベッドで寝たい」

「ナナはお二人をベッドで寝かせたいであります」

「ここが問題だね、君達番なら一緒のベッドで寝れば解決じゃないか?」

「違う、それはサクラが勝手に言ってる事だ」

「はぁ〜? 我との誓いを忘れたって言うのか貴様!」

「いやそれなりには信頼とか絆はあるけど、そういうんじゃないって言うか・・・」

「なるほど、問題点はキミにある!」


リーリャンはビシッと俺の事を指さした。俺は思わず後ずさり、ベッドに肘を打つ。


「つまり解決するなら、こうだ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


俺はリーリャンに担がれ、ベッドに投げ込まれる。そして素早く両脇を支えるように、サクラとナナが差し込まれる。


「これで解決だな!」

「解決してない!」


暴れようとする両腕を、サクラとナナがガッチリとホールドして離さない。


「暖かいなぁお前様」

「暴れちゃダメでありますよ旦那様!」

「離してくれ〜!」

「それじゃあ僕は帰るよ、良い夜をね」


リーリャンは窓を閉め、ウインクしながら扉から出て行った。

もうサクラは寝息を立て、ナナも眠そうにしている。しかし両者とも腕を話す気がないのかガッチリと固まり、俺は諦めてそのまま目を閉じた。

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