第20話
「ナナァァァァァァ!」
天高くそびえ立つガルガンチュアの首、俺はその風圧に吹き飛ばされ背中の山脈に着地した。
『お前様! ナナは?』
「俺を庇って・・・!」
「まだ死んでないであります!」
頭上からナナの声が響く。目を凝らすと、ガルガンチュアの口の中、必死に食われないように突っ張り棒の様な体制でナナは耐えていた。
「普通に助けて欲しいであります!」
「待ってろ! 今何とか・・・サクラ、俺を口まで運んでくれ!」
『了解! 捕まっていろよエルサ!』
「は、はい!」
俺はサクラの背に乗り、ほぼ垂直のガルガンチュアの首をサクラが登っていく。段々と酸素が薄くなり、呼吸も限界になった頃。ガルガンチュアの口元にまでやってこれた。
「主様、旦那様!」
「俺に任せろ! 【反転】!」
俺が上下の歯に触れ、反転を使用する。その瞬間岩石の様な顎が開き、ナナは脱出する。
「巨大な力であればある程、反転は力を増す! その頭ぶち割ってやる! 【反転】!」
また閉じようとする上顎に手を当て、反転を使う。上顎は弾かれる様に開き、口の開きの角度はは90度を軽く超えた。
その瞬間顎の間に亀裂が走り、顎を中心にガルガンチュアの頭は逆に開いた。
「よっしゃぁ! これで・・・」
「違います! 頭じゃない!」
エルサが叫ぶ。逆側に開いたガルガンチュアの頭は崩れ、長い長い首だけがそこに残った。その首の先端には二つの穴が空いており、そこから空気が出入りしていた。
『一度離れるぞ!』
サクラは俺を咥え、ガルガンチュアの首を駆け下りる。首の根元に着地し、胴体から生える二本の牙を中継し地面に降りようとする。
「ひっ」
エルサが小さく悲鳴をあげる。俺がガルガンチュアを見た時、違和感があった。首長竜の様な見た目なのに、どうして胴体から二本の牙が生えているのか。
その答えが目の前にあった。
「目だ! こいつは巨大な象の魔物だ!」
首を改め、巨大な鼻を振り回す。ガルガンチュアは俺達を脅威として認識し、排除しに掛かってきた。
ガルガンチュアの鼻は大地を抉り雲を裂き、俺達に向かって振り下ろされる。
「胴体の下に滑り込め!」
サクラは振り下ろされる鼻をスレスレで回避し、ガルガンチュアの胴体の下に潜り込んだ。ガルガンチュアの腹の下は地層が形成され、潰された文明の後が見て取れた。
『ここまでは鼻も飛んでこない様だな』
「視野が狭いんだ、見失った様だな」
サクラは全力疾走を続けながら、ガルガンチュアの腹の下を陣取り続ける。ガルガンチュアは止まることなく、ゆっくりとした足取りで全身を続ける。その一歩が大地を割り、丘を平野に変形させていく。
「こいつをどうにかして止める方法は無いのか・・・」
「一つ、提案が」
エルサが手を上げる。
「私の【鑑定】を使い、心臓の位置を割り出します。それを潰せば、この魔物は死ぬのではないでしょうか」
「心臓の位置を? 出来るのか?」
「かなりの無茶をすれば、【鑑定】で相手の弱点などを看破できます。実際血管を見付けたのもその力です」
「・・・もつのか?」
俺はエルサの様子を指さす。今でさえ鼻血を流し、唇は青ざめ息を切らしている。これ以上無茶をすれば死にかねないように見える。
しかしエルサは頬を張り、首を振って俺の目をまっすぐ見た。
「やります」
「そうか。じゃあ看破した心臓をどうやって破壊するかだ」
「はい! ナナにお任せ下さい!」
今度はナナが元気いっぱいに手を上げる。
「ナナの【勇者】のギフト、その奥義をもって必ず破壊してみせるであります!」
「本当か!?」
「勇者に二言はありません!」
「よし、信じよう。それしか方法は無さそうだ」
止まらぬ地響きと、頭上を移動する巨体。サクラは必死に置いて行かれないように足を動かす。俺はそんなサクラの背を叩き、頭上を指さす。
「サクラ、作戦が決まった。もう一度ガルガンチュアの背中に登れるか?」
『あぁ分かったぞお前様!』
「この状況をひっくり返すぞ!」
サクラは速度を上げ、爪を立ててガルガンチュアの足をスルスルと登っていく。
ガルガンチュアが体を揺らす度に岩石が雪崩の様に降り注ぎ、それを俺とナナで弾き飛ばす。
ガルガンチュアの背中の山脈まで辿り着いたサクラは足をとめず、ただひたすらにかけ登った。
「あっ! ありました! 心臓、あの山と山の間に!」
「よし! そこまで頼む!」
サクラは山脈を駆け抜ける。だが俺達の行く先にガルガンチュアの鼻が現れた。
「心臓が近い、下手に動けないはずだ!」
『下を通り抜けるぞ!』
俺達は身をかがめ、ガルガンチュアの鼻の下を通り抜ける。エルサが指さした場所には巨大な崖があり、下は溶岩溜りになっていた。
「これじゃあ心臓に攻撃出来ない!」
「いいえ、ナナなら大丈夫であります!」
ナナは大剣を背中から引き抜き、片目を瞑って狙いを定める。まるでバッターの様なフォームで狙いを定め終えたナナは、剣を垂直に構えた。
その時また、俺の視界にガルガンチュアの鼻が見えた。鼻は大きな岩石を掴み、鼻息で俺達に向かって発射してきた。
『クソッ!』
サクラに岩石が直撃する。乗っていた俺達諸共また、ガルガンチュアの背中から振り落とされる。
だが、ナナは落ちながらも再度狙いを定めていた。諦めてはいなかった、自分のやれる事を最大限やろうとしていた。
「諦めないぞ! サクラ、俺を地面に投げ飛ばせぇ!」
『・・・っ!』
サクラが俺の足に噛み付き、反動を付けて地面に向かって投げ飛ばす。俺は地面に着くと同時に受身を取り、落下してくるナナに向かって腕を突き上げた。
「角度良し、速度良し、タイミング狙え!」
自分自身を鼓舞し、落ちてくるナナに全神経を集中する。ナナは再び狙いを定め終え、頭上にあるガルガンチュアの心臓目掛けて剣を垂直に構えた。
「頼んだぞナナ! 【反転】!」
ナナの落下エネルギーを反転させ、上空に向かって打ち上げる。
光の矢となったナナの大剣が光り輝き、周囲を明るく照らした。
「
ナナはガルガンチュアの体を切り裂き、山脈ごと心臓を真っ二つにした。
真っ二つになったガルガンチュアは切れ目から大量の体液を流しながら、お互いがもたれるようにその場に崩れた。
『回収!』
サクラにまた咥えられながら、落下してくるナナを受け止める。
「対魔王最終奥義であります!」
「すげぇぞ! さすが勇者だ!」
「へへーんであります!」
『このまま街まで戻るぞ、あと早く背に登れ!』
俺達は崩れていくガルガンチュアを背に、街まで戻った。
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