第18話
「ナナ!」
「いくであります!」
大剣を滑らせ、ナナがガルガンチュアに向かって剣を振るう。
ガルガンチュアは岩の巨剣でその一撃を受け、空いた手を地面に突き立てた。
「溶解液が来るぞ!」
「ぬぅん!」
地面から腕を引き抜くと同時に、溶解液が散弾の様にナナに向かって飛び散る。ナナは大剣でそれを受け止めるが、煙と鉄の溶ける音が響く。
「ナナ!」
「ご安心を! こんな事もあろうかと出発前にコーティングしてきたであります!」
ナナの大剣には傷一つなく、溶解液は全て防げていた。
「俺もサクラもコイツには敵わない、ナナに任せていいか!」
「お任せ下さい! 魔王狩り、果たして見せましょう!」
「サクラ!」
俺はガルガンチュアの相手をナナに任せ、サクラの元に駆け寄った。
サクラは傷付いた爪を引っ込め、拳に包帯を巻いていつでも戦闘出来るように準備していた。
「なんだお前様!」
「俺と一緒に来て欲しい」
「どこにだ?」
「あそこだ」
俺はガルガンチュアとナナの背後を指さす。ガルガンチュアの背後、この部屋の反対側には一箇所だけ不自然な人工物の扉が見えた。
「あんな場所に扉が?」
「あの扉の向こう側に行きたいが、恐らくガルガンチュアが邪魔をしてくるはずだ。俺かサクラどちらかが辿り着けばいい」
「分かったお前様、どちらかが囮になれということだな!」
「そういう事だ」
サクラは深く頷き、俺の頬に接吻をした。
「そんな不安そうな顔をするな、我に任せろ」
サクラは飛び出し、ガルガンチュアの横を通り抜けた。その瞬間ガルガンチュアの動きが変わり、地面に両腕を突っ込んだ。
「行かせん!」
「隙ありであります!」
サクラの進行方向に、両腕が地面から飛び出す。剣を振り回し、溶解液を弾丸の様に発射する。本体にはナナが大剣で切り掛り、その首が落ちる。
「今だ!」
俺も走り出し、サクラの隣を通過する。ガルガンチュアの飛び散らせる溶解液を躱し、扉まで辿り着く。
「行かせはせん!」
「うわっ!」
手を付いた扉からガルガンチュアの首が飛び出し、俺の胴体目掛けて溶解液を吐き出した。
俺は咄嗟に後退し躱すが、次の瞬間背後から感じる殺気に体が動いた。
「避けるであります!」
「ぬぅん!」
首の断面に大剣を突き刺し引っ付いたナナが大声をあげる。そこには巨剣を振りかぶった首なしのガルガンチュアが立っていた。
「危ねぇ!」
間一髪の所で巨剣の一撃を躱す。だが飛び散った溶解液が服に付き、音を立てて溶かし始める。
すぐに服の一枚目を脱ぎその場に投げ捨てる。
首なしのガルガンチュアは地面に腕を突き立て、そこから首を回収し自分の頭に取り付けた。
「俺は死なず! 行かせもせん!」
「ナナ!」
俺の合図と同時にガルガンチュアの背後から、ナナが胴体に向かって剣を突き立てる。しかし剣は途中で阻まれたかのように止まり、大剣が突き刺さったガルガンチュアはナナをその手に捕まえた。
「ぐっ!」
俺はガルガンチュアの背中に飛び付き、腕に這い登る。ナナを掴む指に手を掛けるが、ピクリとも動かない。
「このままぐちゃぐちゃに溶かしてやる!」
ナナを掴んだままガルガンチュアは大きく腕を上げ、地面に向けて腕を振り下ろす。
俺は拳の先端に手の平を当て、大きく息を吸い込んだ。
「【反転】!」
地面に叩き付けられる直前に発動した反転は、腕の勢いを反転させ俺とナナを天井付近まで放り投げ上げた。
ナナを抱き留め天井にぶつかり、ナナを庇って地面に着地する。
「ナナ、大丈夫か?」
「ぐ、首が焼けたくらいであります。この程度すぐ治るでありますよ」
ナナは自分の足で立ち、自分の剣を探す。だがナナの大剣はガルガンチュアの背中に突き刺さったままだった。
「旦那様、少しお耳を」
「どうした」
「あの胴体、何かが入っているであります。何か硬いものに突っかかり、刃が止まったであります」
「お前様。観察してたが、奴は恐らくゴーレムの一種だ。ゴーレムは体のどこかにコアがあるがそれじゃないのか?」
「なるほど、大体分かった」
俺は大きく深呼吸し、頭の中で情報を整理する。
「岩人間はゴーレムの一種、それでコアが体のどこかにあると。それを壊すとどうなる?」
「ゴーレムは自壊する。ゴーレムの倒し方はコアを壊すかバラバラにするかの二択だからな」
「じゃあ胴体の中にコアがあると仮定して、それをどうやって壊すかだ」
「外側は溶解液のコーティング、中は岩石の体で硬い。その上コア自体もかなりの硬さであります」
「我なら壊せる、問題はコアと本体を分離させる術だが」
「それは俺がやる。話はまとまったな」
ガルガンチュアは背中から大剣を引き抜き、俺達に向かって投げつける。ナナは難なくそれを受け止め、剣を構える。
「時間稼ぎはお任せ下さい!」
ナナは大剣を担ぎ上げ、溶けるように地面に伏す。そしてそのままの姿勢で地面を這うように動き、ガルガンチュアを逆袈裟に切り裂いた。
ガルガンチュアの表面を覆っている溶解液が剥がれ飛びるが、ガルガンチュア本体にはダメージはない。ナナはそのままの勢いでガルガンチュアを切り続ける。
「サクラ、俺の背後に着け!」
「おうよ!」
俺はガルガンチュアの背後に回り込み、ガルガンチュアの背中に飛び付いた。大剣が刺さっていた隙間に腕を突っ込み、コアらしき物を掴む。
「くっ!」
溶解液で腕がじっくりと溶かされる。痛みに顔を歪めながら、コアを引き抜こうと思い切り引っ張る。
「離せぇ!」
ガルガンチュアが俺を掴み、引き剥がそうと引っ張る。
そのガルガンチュアの腕にサクラが噛み付いた。
「我の番の邪魔をするなぁ!」
サクラの鋭い牙が、ガルガンチュアの岩の腕を破砕する。溶解液が周囲に飛び散り、サクラの口からも煙が昇る。
俺は力を込めてコアを引っ張り、体内に戻ろうとするタイミングでギフトを使った。
「【反転】!」
戻ろうとしたコアは反転し、俺は勢いよくガルガンチュアの体からコアを引き抜く。空中に放り出されたコアを、サクラが口でキャッチする。
「
サクラがコアを噛み砕く。その瞬間ガルガンチュアは動きを止め、その場に崩れ落ちた。
ナナは大剣の先でガルガンチュアの残骸を突くが、ピクリとも反応は無い。
「魔王討伐完了であります〜!」
ナナは両手を振り上げ、大喜びした。だが俺には一抹の不安があった。
「おいナナ、こっちに来てくれ」
「なんでありますか?」
「この扉を開けるのを手伝ってくれ」
俺はガルガンチュアが守っていた扉に手を掛ける。一人ではビクともせず、ナナの手を借りようと思ったのだ。
「ふぬぬぬ!」
「・・・これは俺の予測だが、まだ魔王狩りは終わっていない」
「どういう事で・・・! ありますか! ふんぬ!」
扉が開く。
中は小さな部屋になっていた。部屋の中央には、不気味に鼓動する赤い球体が存在していた。
「これは?」
「・・・恐らく心臓だ」
「心臓!? こんなに巨大な。いや、なんの心臓でありますか!?」
「それはあんたの口から聞こうか、エルサさん」
俺は部屋の入口に振り返る。
そこには、剣を持ったエルサさんが一人。不気味な笑みを浮かべて立っていた。
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