友達上級者目指そうよ!
朝野さんと出会ったあの日から朝野さんは毎日、声をかけてくれるようになった。
「鎌っちー、おはよ〜」
「おはようございます、朝野さん。五十嵐さんもおはようございます」
「鎌ヶ谷君……おはようございます……」
五十嵐さんは挨拶をしたら返してくれるけれど、やっぱり少し距離を感じた。俺って五十嵐さんと友達だよな?もしかして・・・嫌われてる!?
そう考えていると先生が教室に入ってきていつものように授業が始まった。だが俺は五十嵐さんのことを考えていて授業に集中できていない。
「カプサイシンは食欲増進や血流改善などの健康効果に期待できるぞ。この成分が含まれているものはみんなも知ってるものだと思うぞ。そうだな・・・鎌ヶ谷答えてみろ!」
俺は授業を全く聞いておらず急に当てられたことで咄嗟に出てしまった。
「ぃがらし!」と。
やらかした。完全に不自然だろ。急に五十嵐なんて言うなんて。俺はまたもややらかしたと思った。
「正解だ。唐辛子の主成分だな。」
どうやら助かったようだが朝野さんだけはこちらを見てニヤニヤしていた。
♢♦︎♢♦︎
そこから授業は進んでいき昼休みになると朝野さんに昼食を一緒に食べようと誘われた。
「鎌っち〜」
「笑ってますよね?」
「だって、あのタイミングで五十嵐って……。すみっちのこと好きすぎやん」
朝野さんは笑いながら俺の肩を叩いた。
「私は……」
「ごめんなさい。五十嵐さんを困らせるつもりは……ただ五十嵐さん俺のこと避けてますよね?」
「私は……そんなつもりは……ない……です」
五十嵐さんの考えてることは俺には全くわからなかった。だから少し距離があるように感じたのかもしれない。
「五十嵐さん、職員室で渡部先生が呼んでたよ」
クラスメイトの1人が五十嵐さんに伝えると五十嵐さんは教室の隅を通って静かに廊下へ出た。
「すみっちは鎌っちのこと避けてる訳じゃないんだ。あの子は昔色々あってね、人と関わるのが少し苦手なんだよ」
「そう……ですか」
「うん。でもね、めちゃくちゃいい子なんだ」
朝野さんは笑顔で五十嵐さんのことを話してくれた。朝野さんはいつも元気で笑顔だと思っていたけど・・・五十嵐さんの話をしているときが一番の笑顔だった。
「それより、鎌っちってなんていうか……友達下手だよね」
「えっ?」
「なんだろうなー・・・・わかんないけど下手」
朝野さんの言う通りだ。俺は友達なんてできたことがないし、ましてや女子と話したことなんて家族以外では先生と近所に住んでいるおばさんくらいだ。
「だって俺、友達出来たことないし……」
「えっ?今まで一度も?」
「うん」
「そうなんだ……じゃあ私たちが友達第1号だね!」
「うん」
「じゃあ・・・・友達第1号が友達テク教えてあげるよ」
「友達テク?」
「うん!一緒に友達上級者目指そうよ!」
朝野さんはこんな俺を友達にしてくれただけでなく友達のやり方を教えてくれると言ってくれたのだ。俺はその言葉に暖かさを覚えた。
「早速なんだけど、今日の放課後なんか用事ある?」
「図書室で勉強しないといけないんだど……」
「あっ……じゃあ暇だね。ショッピングしに行こ!」
「話……聞いてたんですか?」
「そういうとこだよ。ひまちゃんの友達テク1;自分から積極的に関わるべし!」
朝野さんは誇らしげに言った。だけどそのことが友達がいなかった俺にはピンと来なかった。
「友達上級者になるためには自分から手を取りにいかないと・・・・そうしないと誰も手を差し伸べてくれなくなっちゃうよ。」
「手を取る?」
「そう。手を取る。向き合うってこと。この場合は笑っておっけーって言うんだよ」
朝野さんはそう言いながら俺の頬に指を当てて口角を押し上げた。
「おっけー……」
「よくできました」
朝野さんはそう言って俺の頭を軽く撫でた。朝野さんに言われて初めてわかった。他の人たちが俺を拒絶したのではなく、俺自身が他の人の手を振り払って拒絶していたのだと。
少しすると渡部先生に呼び出された五十嵐さんが帰ってきた。俺は五十嵐さんとちゃんと向き合うためにもさっきのことを謝ろうと思った。
「あのさ、あの……さっきはごめんなさい。五十嵐さんの気持ちも考えずにあんなこと言ってしまって」
「私は気にしてない……です」
「ありがとうございます。これからは俺もっと五十嵐さんとちゃんと向き合いたいなって思います」
「あ……はい……」
「だとしたら2人の第1目標は敬語をなくすことだね。もっとラフなん感じで話そうよ!そっちの方が楽しいし」
「やってみるよ……」
「私も頑張る……。よろしくね……鎌ヶ谷君」
「あははは・・・・少し変だけどそっちの方がいいよ」
昼休み終了の鐘が鳴った。その鐘の音はいつもと同じはずなのに全く違う音のように感じた。
♢♦︎♢♦︎
放課後になり、俺は朝野さんと五十嵐さんとショッピングモールに向かっている。昼休みには勉強があると言ったものの結構楽しみにしていたのだ。なぜなら初めての友達とのお出かけ・・・・これはつまり親友ということなのでは?ネットに書いてあったし(そんなこと書いてありません)
「着いたよー」
荒川ショッピングモール。玉城山学園から徒歩で15分くらいのところにある大きなショッピングモールだ。中には洋服店やレストランはもちろんのこと映画館、温泉、室内遊園地など数多くのレジャー施設もあり、1日中遊ぶことのできるショッピングモールである。
「さぁ、行こうぜ!」
「う、うん。鎌っちなんかテンション変じゃない?」
「うん……鎌ヶ谷君いつもと違うよ……」
「そんなことないと思うぜ!」
悠人の目はキラキラに輝いていた。それだけでなく性格もひまわりが引くくらいの陽キャになっていた。悠人は初めての親友(?)たちとのお出かけという未知の事象に脳が耐えきれなくなり変なスイッチが入ってしまったのだ。
それからショッピングモールに入ってからも悠人のテンションは上がっているままだった。
「この服、ひまわりちゃんに似合うと思うぜ!」
「やばい、やばいよ。すみっちー。鎌っちが壊れちゃった」
「これはもう助からないかも……」
「えーそんなー・・・・頭殴ったら治るかな?昔のテレビみたいに」
「それしかないかも……」
ひまわりは思いっきり悠人の頭を叩いた。すると悠人のテンションが変わった。
「きみぃかわうぃね。俺と付き合っちゃう〜」
「やばい、やばいよ。もっと強烈なキャラ来ちゃったよ」
「ちょっと苦手……です」
ひまわりはもう一度悠人の頭を叩いた。また悠人のテンションが変わった。
「俺みたいなゴミがショッピングモールに来てしまってすみません」
「次はめちゃくちゃ暗いよー」
「俺なんかが同じ空気吸ってすみません」
「私、こっちの方が安心するかも……」
「すみっち!?だめだよちゃんと戻さないと」
その後、ひまわりは悠人の頭を何度も叩きまくった。厨二病であったり、セクシーお姉さんなど色々なキャラが悠人に宿ったが、やっと元の悠人に戻った。
「ここは?」
「ハァハァ・・・・鎌っち、やっと戻ったよ」
俺の記憶が飛んだ少しの間何か色々あったらしい。あの元気な朝野さんが疲れているのだから・・・・俺は関係ない・・・・うん多分。
「疲れたし、あそこで少し何か食べよう」
朝野さんは中華レストランを指して言った。俺は全く疲れていなかったが、ここでそんなこと言ってしまえばまずいと思って心の中にとどめておいた。
「うっまーーー」
「美味しい」
「美味しいです」
中華レストランに入った俺たちはそれぞれ違うメニューを頼んだ。俺はラーメン、朝野さんはチャーハン、五十嵐さんはエビチリだ。
「鎌っち、ラーメン少しちょうだい?」
「いいよ。取り皿ある?」
「ないけど。そのまま食べるから大丈夫」
朝野さんはそう言うとラーメンどんぶりを自分の方に近づけた。そして前髪を左手で軽く上げて箸を使い、ラーメンをすすった。
俺の体は熱を持っていた。ラーメンを食べたせいなのか?それとも……。
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