序章:第5話【終末期⑤】

新たな事実が判明した。

度重なる実験の結果、ゾンビには、僅かながら意識も記憶もある事がわかったのだ。

それはつまり、焼かれながら頭を吹き飛ばされながらも、彼らには、意識があったという事だ。

政府は、その事実を社会から秘匿した。

又、新たな問題も浮上していた。

ゾンビ化する年齢が、下がっているというのだ。

つまり、今までは高齢者だけがゾンビ化していたのだが、徐々に、60代、50代、40代の人間も、死後にゾンビ化する兆候が見え始めたのだ。

政府はその事実も隠匿しようとした。

当然だろう。

この事実が明るみに出れば、社会の機能そのものが破壊される危険があるのだから。

だが皮肉にも、このゾンビ低年齢化問題は間も無く社会の目に晒されてしまう。

そのきっかけになったのは、惨劇の始まりに関わった、例の医師である。

テレビに例の医師が映っている。

国会中継だった。

彼は国会の場で、ゾンビ撲滅の正当性を、自らの正しさを熱弁していた、

その時である。

医師が突然、倒れた。心臓発作であった。

倒れて、数秒で彼の命の火は消えた。

しかし、その直後、

彼は蘇った。

ゾンビとして。

そして彼は、即座に法に則り頭を撃ち抜かれて、再殺された。

その光景が、全国中継で流されたのだ。

それは、彼自身が唱えていた高齢者のみがゾンビ化するという推論が否定された瞬間でもあった。

社会は、震撼する。

人類が目を背けていたその事実を認識したからだ。

それは、『人は生きている限り、老いる』、

という事である。

そう、人類は気付いた。思い出した。

このゾンビ化は、老人だけの問題では無い事に。

『死』と同じく…いや、『老い』と同じく、生きている限り逃れられ無い事に。

生きている限り人はいずれ必ずゾンビとなる。

ゾンビ化すれば、自らが作り上げた世界のルールに殺される。

逃れる方法は、唯一つ。

ゾンビ化する前に、死ぬしかない。

この真実を前に、人間は、生きる希望を失った。

未来は絶望しかないからと。

死んだまま怪物として生きるか?

生きたまま殺されるか?

その前に、自ら死を迎えるか?

真実を知った人類は、この先にどのような未来を創るのであろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る