第6話 綺麗な人


 トレーネが初めてその瞳へうつしたは命の恩人、それは大変である。

 真っ直ぐに天へと伸びる角、威厳を感じる立派な牙、美しい曲線を描く爪、そして大きな瞳は吸い込まれるように美しい。

 月の光を浴びてキラキラと光る鱗がただただ幻想的で、トレーネは初対面にもかかわらず恩人・ソールに抱きついてしまったのだった。



 ふたりは廃砦で楽しく暮らし始めたのだが、トレーネはある時倉庫の中で発見した大きな鏡に自身の姿をうつして地獄へと叩き落された。


──ぼくの姿はソール様と似ても似つかない! ああ、なんてんだ! きっとぼくは“魔物”という生き物に違いない。嫌だ、ぼくもソール様と同じ“人”になりたいよ!!


 トレーネはソールを心配させないよう、ひっそりと己の醜さを憂いて泣いた。

 だがそんな醜い自分魔物にも優しくしてくれるソールの気持ちに応える為、トレーネは懸命に勉学に励んだ。魔法だってソールが眠っている間も沢山練習をした。


──ぼくは醜い魔物。だから大好きなソール様の足手まといにならないように勉強や魔法だけでも頑張らないと!


 トレーネは研鑽を重ねつつ、ソールと共に暮らす穏やかで幸せな実りある日々を大切に生きるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る