第5話 砦の暮らし


 少年の名前はトレーネ、年齢としは10才になる。

 ソールは身寄り学もないトレーネに生きる術を教えることにし、命を絶つことを少し先延ばしにすることにした。



 ふたりは初めて出会った廃砦で暮らし始める。

 ソールは得意の魔法を駆使しながらトレーネに読み書き計算を教え、更に魔法の手解きをした。

 トレーネは非常に優秀な生徒で、ソールに教えられたことを直ぐに吸収していく。


「ソール様、もっともっとぼくに色んなことを教えて下さい! ぼく、ソール様みたいになりたいんです!」


 そんな事を言うトレーネが可愛くて、可愛くて。ソールは死んでしまうのが惜しくなっていた。



 ベッドで健やかに眠るトレーネを見つめながらソールはふと思う。こんなにも穏やかな時を過ごしたのはいつ以来だろうと。

 過酷な呪い集めの旅の前は、勇者一行として魔王討伐の旅をしていた。その前は日々生まれ故郷を狙う魔物達との戦いに明け暮れた。

 だが今は倒すべき敵はおらず、封じるべき呪いは全て集めきった。ただあるのはトレーネという小さな存在だけ。


「ん〜、ソール様ぁ。大好きです、えへへ」


 そんな寝言を口にしてにこにこと微笑む少年のことをソールもまた我が子のように愛してしまっていた。

 トレーネと共にありたいと思うが、醜い自分では必ず少年の未来を歪めてしまう。

 明日こそは、明日こそは別れを切り出そう……ソールはトレーネの寝顔を見て毎晩そう決意するのだった。

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