第15話 アマビエ、ミエ

ある夜、小梅は少し熱っぽかった。

お母さんに「今日は早く寝ようね」と言われて布団に入ったけれど、なんだか体が重くて、喉も少し痛い。


「……うーん、なんか、へんな感じ」


そのとき、部屋の隅にふわりと水の気配が漂った。障子の向こうから、静かに誰かが入ってくる。

青い服を身にまとい、糸目でにこにこと微笑む女性——ミエだった。


「こんばんは、小梅ちゃん」


「……だあれ?」


「ミエ。アマビエっていう妖怪なの。ちょっとだけ、病を和らげる力があるの」


「病……?」


「病気のことだよ」


「じゃあ、お熱、あるかも」


「うん、だから来たの。月の光が、少しだけ呼んでくれたの」


ミエはそっと小梅の額に手を当てる。手は冷たくて、でも不思議と安心する温度だった。


「……あったかい」


「ふふ、よかった。少しだけ、楽になると思うよ」


その夜、小梅はぐっすり眠った。翌朝、熱はすっかり下がっていた。


「昨日結構お熱出てたのに、もう下がったんだね」


「うん。あのね、アマビエのミエさんが来てくれてね、おでこに手をぴたってやったらお熱下がったの!」


「そっかー、アマビエさん、家にいるんだ。よかったね、病気の時少し楽になるよ!これまでも少しぐらいは手伝ってくれてたのかもしれないけどね」


「うん!」


母親と楽しげに喋る小梅を見て、ミエは微笑み、こっそりとつぶやく。


「勇気出して出て行ってあげてよかった」

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