第10話 垢舐めと小豆洗い
夜の風呂場。誰もいないはずの時間、桶の奥からぺちゃ、ぺちゃ…と音がする。キヨは、こっそり仕事中だった。長い舌を伸ばして、風呂桶の縁についた垢をぺろり。
「ふふん、今日もいい味〜♪」
垢舐めとしての誇りを胸に、静かに任務を遂行していた。その隣には小豆洗いのチエ。キヨとチエは仲が良く、二人で一緒にいることが多い。
「小豆洗おか~♪ヒトとって食おか~♪」
チエは歌いながら小豆を洗っている。でもその夜、小梅は風呂場に忘れ物を取りに来ていた。
「タオル、タオル……あれ?」
扉を開けた瞬間——
「ぺちゃっ」
「……あっ」
目が合った。キヨは舌を引っ込め、目を見開いた。チエの歌もぴたりと止まる。
「ち、ちがうの!これはその、掃除!そう、掃除!」
小梅はぽかんと口を開ける。
「そ、そう!私も小豆を洗ってただけ!」
チエとキヨは真っ赤になった。
「いやその、妖怪的には、ほら、伝統的な……!」
小梅はチエとキヨがテンパっているのを見て、にっこりと笑う。
「すごい!風呂場きれいなの、キヨちゃんのおかげだったんだね!」
「えっ……怒ってないの?」
「ううん、むしろ感謝してる!」
小梅はにっこり笑った。
「キヨちゃん、風呂場の守り神だね!チエちゃんも、歌声きれいだよ!」
その言葉に、チエとキヨは照れながらも胸を張った。
「ま、まあね!あたしがいれば、カビも垢も寄ってこないよ!」
「私も、私以上に歌上手い人知らないもん!」
その夜、風呂場はいつもよりぴかぴかだった。チエは歌いながら小豆を洗い、キヨは堂々と舌を伸ばしていた。
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