第4話奇跡はなく、土台は実力、最後は運
目的地は決まった。あとはその方法だけだ。
頭にキャンパスを思い浮かべる、これが自分の中で一番想像できる手順だからだ。
ゼノスは戦いのプロだとそれは素人目にもわかっていた。だからあの瞬間の撃ち合い、身体が勝手に動いたあの動きに近づかなければならない。
(当てれるのは一撃だけ、二回目なんてない。だから思い出せ。一撃だけ当てればいい)
成功したとしても一度限り、一瞬の隙だろう。それで何もできなかったら負ける。
死。
一撃。たったの一撃。されど一撃。
はじめてのちゃんとした命の駆け引き。身体は戦えるが心はまだわからないことに若干の不安を感じてはいるが何とか踏ん張っていた。
(やめておけ、……言い方はこれであっているはず)
あの一瞬のフラッシュのように流れた英雄の記憶の中で違う記憶でも多々言われていた言葉。
だんだんと頭のキャンパスがいい具合に完成してきた。あとは色を塗っていくだけってところだ。
(よし!あとは気持ちの問題か。まさか気持ちの問題とか嫌いな言葉を使うとは、)
時は来た!
(あいつがビビっているかもしれないうちに!)
バッと!!一番近くにある大きい壁のような崖めがけて走り出した。奴の上をとるために。
(ようやく出てきたな)
竜巻を起こし、じわじわと隠れるところを潰していたがすかさずゼノスは矢のような形をした雷を無数に放った。
(さあ、なにをしてくる。このゼノス、死ぬ覚悟はとうにできておる。何をしてこようと関係はない)
無数に頭を巡った可能性をすべて無駄だと判断し、やられたことに反応することに集中した。
(よし!まずは避けれてる!このまま一気に!)
雷を避けながら崖に向かった。狙いはひとつ。唯一奴と自分が対等以上にできること。
スピード勝負に持ち込むこと。
(これしかない。いやこれしか思いつかない!下からだとスピードがおちる、なら上から叩きつけるしかない!)
下から飛びかかることも可能だ。だがその場合スピードがおちる。奴に届く前に落とされるだろう。
それか先のように簡単に反応されカウンターをくらうだけだ。だから上から重力を剣にかけて斬る。
(スピードしかない。さっきは必死で気づかなかったけど、避けることはできた。目で追うこともできた。
ならできるはずだ)
崖を使い奴の上をとりそのまま相手めがけて一直線に突っ込む。これが作戦だった。
からめてなど奴には通用しない、そもそも自分が思いつくことは絡めてにならない、けど隙がなければ勝てるはずがない。なら単純なことで奴の隙をつくるしかない。
そのための魔法の言葉。
(やつは、…あの位置だな。あの高さなら上を叩ける。
…………やってやる)
これはスピード勝負だ。どちらが上を取れるかの。
(速く!)
ゼノスは地上から約300メートルの高さにいる。崖は大体500メートル。
一瞬の勝負だ。
0.5秒、100メートルを超える。
助走をつけたぶんトップスピードで駆け上がることができる。音さえも置き去りするほどの世界だ。魔法でできた偽物の雷など当たるはずがない。
1秒、ゼノスが狙いに気づいた。
(そいうことか!上を!)
すぐさまゼノスは上をとりにいった。素晴らしき反応の速さと判断の速さだが、今この2人の世界では遅すぎる。すでにゼノスは敵を上に見ていた。
そしてもう一つゼノスはミスをした。ゼノスの判断は速さだけで、判断は間違えていた。
1.3秒
(はやい!)
世界最速だったゼノスでもこの世界ならすでに最速ではない。風を蹴り上げ雷を纏いまさに疾風迅雷の如くだったが追いつくことができない。
(なんと!)
諦めるべきだった。追いつかない時点で。ゼノスは反応することだけを考えすぎていた、逃げる。この選択肢がすでに消えていたのだ。死を覚悟したあの瞬間から。
2秒
(ここだ!)
崖の先端につきかけるそのとき。敵がどこにいるのかわからないが奴を仕留めるための一歩を踏みしめる。背中には汗と寒気と緊張がしたが時間はかけてはならない。
無駄な動きなどしてはいけない。
2.1秒(!)
視線に入ったと同時に突っ込む。できることは後一つだけ。しっかり奴に聞こえるように言わなければいけない。
音を置き去りにする世界では難しすぎるこの瞬間の魔法、近すぎてもダメだちょうどいい位置で言わなければならない。
できるはずだ、この速さの中でも冷静だ。見える、
雨の水滴も止まっている、やつの行動全てが見える。
この状況をキャンパスに描けばいい絵が描けるだろうって考えるぐらいには見える!
(くるか!)
ゼノスは上を取られたとしても関係ない、カウンターを狙うまでだ。
(速い!)
だが速いとはいえ目で追えないほどではない。
(だが見えるぞ!!)
2.4秒
コンマの世界での駆け引き。タイミングを間違えれば言う前に接触してしまう。当たる前に言わなければならない。ならここしかない!
「やめておけ」
「ッ!!」
記憶で見たこの英雄の言葉。動揺したかなんてわからない。だが行くしかない。
奴の首を睨みつけた。
殺す。
(いける!)
剣を振りかざす。剣にあたる雨粒一つ一つが切れていくのがわかるほどの集中力だった。
3秒
(しまっ!)
ザシュ!!とゼノスは猛スピードで右肩を切られた。カウンターは失敗した。だが致命傷は避けることができた。そしてこの一撃でゼノスは確信してしまった。
心ではなんとかまだわからないと唱えるが、この血が出るほどの一撃で、この痛みで確信する。
(クソ!外した!)
斬ったあとに後ろを確かめこの事実を受け止める。
地面に着地し、すぐさまその反動を利用してで もう一度攻撃を狙う。
(まだいける!)
たとえ外したとしてもまだわからない。奴はなにも反応していない、きっとまだ動揺しているのかもしれない。だから次はしっかり首を狙い剣を振るった。
だがいとも簡単にカンッ!と流されてしまった。
「え、?!」
「フンッ!」
攻撃を流されたことで、体はノーガードの剥き出しになっておりそのままカウンターをモロに食らった。
「いっ!!」
幸い血は出ていない。打撲といったところだろう。
(くそ、)
まだ戦える。そんな希望はすぐになくなった。
書いていたはずのキャンパスはすでに失敗作としてゴミ箱に捨てられていた。なぜか?
笑い声が聞こえてくるからだ。
「ハハっはははははははっは!!!」
(笑ってはダメだゼノス)
油断はしていない。それでも笑いを堪えようとする心の声さえも笑いを堪えることができず相手をバカにするような声になっていた。
「あははははははははっあっは!!」
(なんだ、)
不気味で気持ち悪い笑い声にただ圧倒されてしまう、ゼノスは騎士のような言動をしていたはずだ。
なのに、なぜこんなにも甲高い声を出しているのか。
「もう無理だ!このゼノスでも笑いが止まらん!あっはははは!ひゃー!はっ!」
(まさか?、バレたのか)
最悪のパターンが思い浮かんでくる。
「ああそうだな!貴様は英雄なのではない。いやまあ、ずっと英雄ではないのではないかという考えはあった。むろん今も油断なんぞしていない。あの英雄だ、何をしてくるのかわからんからな。だが!」
ずっと半笑いで話すゼノスはまさに勝ちを確信した者の笑いであり相手を絶望させるには十分だ。
(ッ!)
その先の言葉を聞いてしまったらとうとう終わるのかもしれない、そう思わせるほど手が無意識に震えているのがわかってしまう。
「英雄ならば今の一撃で決めておる、だが生きてる!
我はこうして生きておる!はっあっは!こんなにも最高な気分なのは初めてだよ、」
「今の貴様は英雄なのではない。なぜかはわからん。
あの剣技は確かに英雄のものだった。だがそんなのはもう関係ない。お前は記憶を失った、か」
聞きたくない、そう心が叫んでくる。
キャンパスに塗る色がなくなる、
キャンパスに線が書けない。
新たに出すキャンパスが黒く塗りつぶされていく。
「貴様、その身体に入った別人だな?」
鼻で笑いながらもその目は真実を見極めようとする目をしていた。どんなに笑っても、どんなに確信しても、油断はしない。絶対に。
(あ、無理だ)
勝てない。
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