第3話



「さっきも言ったけど、ぼく…この後、塾があるんだ」

「そうみたいだね。小学生も大変だ」

「でもぼく、勉強は好きじゃないし嫌々行ってるの。お母さんが行きなさいって言うから…」

「そりゃまたどうして?」

「ぼくが…頭悪いから」

「…」


男の子はそう言うと、はぁ…とため息混じりに店を出ようとする。

そんな男の子の背中を見ると、やがて魔女はその背中を呼び止めた。


「アンタは…なのかい?」

「…」

「正直に言ってみな。おばあちゃん誰にも言いふらしたりしないから」


魔女がそう言うと、男の子が再び魔女の方を振り向いて言った。


「…僕は自分が嫌いなの」

「…」

「僕が頭悪くて勉強が出来ないから、いつも塾で馬鹿にされるんだ」


男の子がそう言うと、今度はそれを聞いた魔女が口を開く。


「例えば誰にどんな風にバカにされるんだい?」

「…」


すると男の子が黙り込んでしまったから、魔女が「言える範囲でいいよ」と言ったら、少ししてまた男の子が話し出した。


「この前は…学校のテストの点数をみんなの前でバカにされた。お前は何も出来ない虫以下だって。ゴキブリの方がまだマシだって」

「それは酷い」

「塾で宿題のプリントが配られた時、僕の分だけ無かったの。それで先生に言いに行ったら、お前は何も出来ないんだからそもそも必要ないだろって」

「!」


男の子のそんな言葉を聞くと、少しの間黙って聴いていた魔女が、不意に驚いたように口を開いて言った。


「ちょっと待った。アンタが言う“バカにしてくる相手”っていうのは、クラスメイトのコじゃなくて“先生”なのかい?」

「そうだよ。だから塾の度に凄く憂鬱なんだよ」


男の子はそう言うと、何度目かわからない深いため息を吐く。

そんな男の子の姿を見て、魔女はしばらく考えた先に、“とあるえんぴつ”が目に留まった。


「…!」


その“えんぴつ”は、最近魔女が作ったばかりの“新作”だった。

そのえんぴつももちろん他の商品と同様に魔法がかかっており、その為ただのえんぴつではない。

未だに「行きたくないな…」と呟く男の子を見て、魔女はやがてその“えんぴつ”を手に取ると、言った。


「じゃあ、このえんぴつなんかどうだい?オススメだよ」

「…えんぴつ?」


そんな魔女の急な言葉に、男の子が少し不満げに言う。


「えんぴつって、僕は今えんぴつの話をしてるんじゃないよ。塾の話を…」






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