第2話



そう問いかける男の子が手に持っていたのは、紛れもなく魔女が魔法をかけた消しゴムだった。

魔女はそんな男の子の問いかけに答える。


「紙に書いてあるものなら油性だろうが何だろうが何だって消えちゃうのさ。でも、お前さんのような学生さんにはオススメしないね」

「どうして?」

「例えば、問題集なんかを解いてる時にこの消しゴムを使うと、その“問題”まで消えてしまうことがあるからさ」

「ああ、なるほど…」


それは困るなぁ。

男の子は魔女の言葉に素直に頷くと、その「何でも消える消しゴム」を元の場所に戻した。でも…


「普通の消しゴムが欲しいなら、この消しゴムを普通の消しゴムに戻せるよ」


魔女はそう言うと、早速バックヤードに行って魔法を解こうとした。

しかしその時、男の子がそんな魔女を引き留めるようにそれを遮って言う。


「“人を消せる消しゴム”なんて、ないよね?」

「!」


そんな思いも寄らない男の子からの問いかけに、魔女の足がピタリと止まる。

魔女は男の子に背中を向けていたが、ゆっくりと振り向いて言った。


「もしも、私が“あるよ”なんて言ったら…お前さんはどうするんだい?」


魔女がそう問うと、男の子が答える。


「別に聞いてみただけだよ」

「その“塾”で、人を消して欲しいほどの嫌なことがあるっていうことだね?」

「そういうわけじゃ…本当にただ聞いてみただけだって」

「…じゃあ、いま普通の消しゴムを持ってくるからちょっと待っていなさい」

「…」


魔女はそう言うと、再びバックヤードへと戻って行く。

そして、そのバックヤードから一瞬だけ青い光が見えた直後、魔女が店内に戻ってきた。


「ほら、普通の消しゴムだよ」

「…おばあさんって、何か不思議な感じだね。まるで魔女みたい」

「まさか。魔女なんてこの世にいないよ」


魔女はそう言って笑いながら、普通になった消しゴムを男の子に渡す。


「何円?」

「50円だよ」


魔女がそう言うと、男の子はただ一言「安!」と呟きつつ、財布から50円玉を取り出した。


「はい、まいどあり」

「…」


…しかし、魔女がそう言って男の子を見送ろうとしても、男の子はその場から動かない。

そんな男の子に魔女が「どうしたんだい?」と問いかけると、男の子がぽつりぽつりと呟くように話しだした。






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