第2話 君の笑顔

よくアニメで幼馴染は負けヒロインという常識がある。これは、幼馴染ヒロインがこれまでの関係を壊したくないもしくは主人公からそういう目で見られていないなどが要因で起こる現象であると考えている。

かくいう俺も中学生時代幼馴染である秋野に告白し見事玉砕。その結果として高校は違うところを受験し、今に至るわけで・・・

高校生活は今のところとても充実している。簡単な話、いつもの気やすい関係で入れえているとはいえ、いまだに俺の中にはあの時の記憶がヘドロのようにこびりついている。高校で心機一転しようとした矢先にもし同じ学校でなおかつ同じクラスになろうものなら心機一転どころか心機暗転していたところだろう。

まあ、それを防ぐためにわざわざ別の高校を受験したわけであるが…

「それで?今日の課題やった?」

考えに耽っていると後ろから鳴海の声が聞こえる。

「とっくの昔に終わってる。先生方がどこ出すのか大体予想できるし」

「さすが優等生様ですなー。それで頼みがあるんだけど…」

「大方、やってないから見せろだろ?今日の昼奢れ」

「やりぃ!」

俺はノートをガッツポーズしている彼に渡す。しかしそのノートは鳴海の手から第三者の手に渡っていた。

「夏目さん…」

そこにいたのはショートヘアの眼鏡女子だった。

夏目優姫なつめゆうひ学級委員長にして高校入試で主席合格を果たした人物。クラスメイトからは委員長のあだ名で呼ばれている。

「鳴海君?人の課題を写そうとするのはいけませんよ?」

笑顔の中に若干の怒りを含んだ彼女はそう言って凍てつく笑顔を俺たちに向けてくる。

「まあ、でもやってこないよりはマシなんじゃないか?」

俺が鳴海に代わって弁明する。すると彼女はさらににこりと俺に微笑み返す。

「あなたが甘やかすからこの人は学ばないんです!大体・・・・」

どうやら彼女の言葉の矛先が俺に向いたらしい。それを見計らってか鳴海が静かに撤退する。あいつマジで覚えとけよ…

「相変わらずお熱いねー、二人とも…」

クラスメイトの誰かがそういったのが聞こえた。次の瞬間彼女の頬が真っ赤になり、頭のてっぺんから湯気が立ち始める。

ははーんさてはこいつそうと初心だな…

「そんなことありません!!」

彼女の大声は学校中に響くと同時に始業のチャイムをかき消した。


なんやかんやで朝の出来事はうやむやになり、鳴海は無事に課題を提出し忘れた。

「あいつ、これで何度目だよ…」

課題忘れの件で職員室に呼び出しを食らった彼をおいて先に帰ることを決めた俺は玄関を出ると校門前に人が固まっていることに気づいた。集団をよく見るよ何かを中心に囲んでいるような集まり方をしている。そして…ようだった。

「はあ、少しくらい休ませてくれ…」

明らかに俺が原因である集団の中心人物に会うことにする。すると、やはり秋野が校門前に立ってた。オーソドックスなセーラー服を着た彼女はそれだけで絵になる姿を生み出している。

「あ!しんくーん!!」

彼女もどうやら俺をとらえたらしく大声を上げ手を振りながらぴょんぴょんと跳ねる。お前その行動やめろどことは言わないが跳ねてる。どことは言わないが…

「なんで、こっちにいるんだ?」

至極純粋な疑問に彼女はさらに胸を張って答えた。

「春野ちゃんが今日は用事があるって言って先に帰っちゃったからしんくんを待ってたんだー」

えへへ、と笑う彼女はとてつもなくかわいいがそれはそれとして周りからの圧がひどくなっている。これ、明日俺呪い殺されたりしないよね。まあ、明日考えればいいや…

「それじゃあ、帰るか?」

「うん!」

そうして彼女と俺は歩き始める。この感情をもう一度彼女に伝えるわけにはいかない。俺の心の中に何重にも鍵をかけて、封印しなければならない思いである。

過去の俺はともかく今の俺は少なくとも今の状況に満足している。

だから、もう少しだけこの関係を続けたいと思った。

「どうしたの?」

振り向いた彼女の笑顔はとてもきれいで、思いが抑えきれなそうに一瞬なったが何とか飲み込む。

「いいや、なんでも」

この関係が悠久の時続くよう願いながら…

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