第2話 魔王の買い物代行

「また来ちゃった…」

都内の研究所に着くと、博士が缶コーヒー片手に笑って待っていた。


「おぉ、来たなユウマ坊主。くると思ってたぞ」

「……なんですかその余裕!」

「今日のお仕事は、魔王様の買い物代行だ」

「魔王……って、あの怖い魔王ですか?」

「そうだ。現場での観察データが欲しい。危険は……少しある」

「少しって何ですか!」


博士のニヤリを背に、異界渡航装置で魔王城に飛ばされると、薄暗い大広間の奥に魔王が座していた。

角とマント、漆黒の鎧、鋭い赤い瞳……迫力満点。

「……お、おおぅ」思わず声を漏らす俺。

魔王はゆっくり立ち上がり、低い声で言う。


「貴様、今日の代行者か……?」

「はい、俺が……!」

「ふむ、まずは信頼度の確認だ……」

魔王の眼光が全身を走る。


メモを見ると、買うものは牛乳・キャベツ・人間の涙(瓶詰め)・プリン……庶民的すぎる。

「……買えますか?」

「当然だ。しかし魔界スーパーは少し特殊だ。人間界と魔界の商品が混在している」


魔界スーパー到着


店内は魔界らしい装飾と異世界香料で満ちていた。

普通の野菜やプリンが並ぶ棚の間に、「人間の涙」「不死鳥の卵」などギャグ商品も混在する。


俺が牛乳やキャベツをかごに入れようとすると、背後で影が動く。

振り返ると――魔王本人が、影のように静かについてきていた。


「え、ついてきてる……?」

ゴクリと息を飲む俺。

魔王はゆっくり近づき、低い声で囁く。

「代行者、信用できるか……確かめねばならぬ」

「いや、店員さんもいるんで堂々としてくださいよ!」


魔王は俺の隣を歩き、棚の間から視線を光らせる。

キャベツを選ぶ手元をチェックし、プリンの並び順に目を光らせ、時々ゴブリン店員をチラリと睨む。

「ふむ、甘味の選択は正しいな」

「いや、褒めるなら普通に言ってくださいよ!」


レジ&支払い


レジで俺がカゴを持って並ぶと、魔王は静かに後ろに立ち、スマホで電子マネーを準備。

まさかの電子マネー笑

「ポイントカードは……作らなくていいのか?」

「あ、作ります!」やはり庶民派の魔王


ピッとスキャンされ、魔王は満足そうに頷く。

「便利……悪くない」

ゴブリン店員も目を丸くする。


魔王城に戻ると、魔王が早速購入品を広げる。


「まずは牛乳……ゴクゴク」

「わ、めちゃくちゃ美味そうに飲むな!」


「キャベツ……シャクシャク」

「硬そうなのに、美味しそうにかじってる!」


「プリン……ふむ、甘味の基本……うまい!」

「え、プリンめっちゃ褒めてる!」


「人間の涙……酸味が効いて、なかなかの味だ」

「いやいや、それ食べるんですか!?!」


背後から見守る俺は、最初は怖かった魔王が、食べるたびに可愛げのあるリアクションを見せるギャップに思わず笑ってしまった


食べ終わった魔王が俺を見て静かに言う。

「……よくやったな、代行者」


「え、あ、ありがとうございます……」

緊張のあまり、噛みそうになる俺。


魔王はゆっくり手を差し伸べ、意外にも握手を求めてきた。

「……次も頼むかもしれん。楽しみにしておれ」


「えっ、次もですか!?……また会うんですね」

魔王は頷くと、手を離す。そして城の奥に消えていった。


俺は後ろ姿を見送りながら、財布と胃袋以上に心が少し温かくなるのを感じた。

「……怖いけど、なんか憎めない魔王だな」


研究所に戻ると、博士が缶コーヒー片手に待っていた。


「おぉ、生きて帰ったか。くると思ってたぞ」

「くると思ったって余裕すぎませんか!」

「プリンの反応が一番データ的に面白かったな」


俺は茶封筒を受け取りながら質問した。

「……ところで博士、このバイトって結局何を研究してるんですか?」


博士は肩をすくめ、缶コーヒーを口元に運ぶ。

「フフッ、これからの時代、人間が異世界でどんな仕事に適応できるかを観察してるんだ」

「え、適応力を?俺、モルモットですか!?」

「実験台ってほどでもない。便利な“被験者兼実務者”だ」

「便利な……じゃなくて、もう日給3万払う意味半分ギャンブルじゃないですか!」

「ハハッ、そう思うなら次はもっと楽しめるぞ」


博士はニヤリと笑い、缶コーヒーを飲み干す。

「次はどんな異世界バイトを体験するか、楽しみにしておけ」


俺は深く息をつきながら、財布と胃袋の準備をして心の中でつぶやいた。

「……また異世界か。日給3万の代償、意外と大きいな」

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