今日から異世界バイト生活‼︎
ヨグ
第1話 異世界でSPデビュー!? 今日のバイトはお姫様の護衛
俺の名前は相沢ユウマ、二十歳。
学費のためにネットでバイト探してたら――見つけたんだ。「高時給・日払い・未経験可・交通費不要」って怪しい求人を。
時給3万って時点で怪しすぎるのに、気がついたら応募ボタンを押していた。
案内メールに従ってたどり着いたのは、都内の外れにある古いビルの地下。
ドアを開けると、白衣を着た髭面のおっさんが缶コーヒー片手に座っていた。
「よぉ、来たな新人。ワシがこのバイトの管理人、博士だ。博士って呼べ。名前は長ぇし忘れやすいからな」
「え、えっと……博士、ですか?」
「そうだ。肩書きじゃなくてあだ名だ。実際博士号は持ってねぇ」
「持ってないんですか!?」
「持ってたら時給3万なんて怪しいバイト回さんわ。ハハッ」
この時点で帰りたかった。
でも博士はニヤリと笑って言う。
「さてユウマ坊主。今日からお前には――異世界でのアルバイトをやってもらう。命は取られん程度に危険だが、財布にはやさしいぞ」
「いや命のほうが大事ですよ!?」
「だいたいみんなそう言う。だが金が必要になると戻ってくる。不思議なもんだなぁ」
博士の部屋の隅には、冷蔵庫大の機械がうなりを上げていた。
その名も「異界渡航装置」。
「ま、安心しろ。多少殴られても死にはしないように調整してある」
「“多少”って何ですか!?」
ツッコミを最後まで入れる間もなく、俺はその装置に押し込まれ――眩しい光に包まれた。
目を開けると、そこは石畳の広場。ファンタジーRPGみたいな街並み。
目の前に立っていたのは、金髪のドレス姿の少女――王国の姫だった。
「あなたが今日の護衛ですか?」
「あ、はい。アルバイトの相沢です」
「あるばいと……?」
怪訝そうな顔をしながらも、姫は俺を従者に任命したらしい。
今日の仕事内容は「姫の街視察の護衛」――つまり異世界SPだ。
人混みを歩く姫のすぐ後ろをついていく。
視線を配り、路地をチェックし、不審者がいないか確認する。
――やってることは意外と本物のSPっぽい。
「……そこの露店、妙に人が固まってますね」
「え、ええ?」
「危険かもしれない。まず私が行きます」
とりあえず露店の串焼きを一本買い、毒見。
――うまい。
姫の前に差し出すと、姫はおそるおそる口に入れ、ぱぁっと笑顔になった。
「とても美味しいです!」
「ですね。……じゃあ俺もう一本」
「ちょっと!護衛が食べすぎではありませんか?」
その後も、姫が店に入る前に扉を開けて中をチェックしたり、道端の物売りに怪しい粉を勧められて断ったり、子どもにぶつかられそうになって庇ったり――。
妙に本格的なSP仕事をやらされている気がする。
だが安心していたのも束の間。
「――そこの娘を渡してもらおうか!」
路地裏からフードをかぶった怪しい連中が飛び出してきた。
お決まりの刺客である。
「ひぃっ!」
姫は俺の背中に隠れる。
俺は叫ぶ。
「ちょ、俺ただのバイトなんですけど!?時給3万じゃ命張るの割に合わないんですけど!?」
「護衛というのはそういうものでは?」
「正論やめて姫ぇぇ!」
しかしその瞬間、俺の身体がふっと軽くなる。
剣を素手で受け止め、逆に刺客たちを投げ飛ばすことができた。
……どうやら異世界補正で、俺はちょっとだけ強くなっているらしい。
「す、すごい……!」
「いやいや俺もビビってますよ!」
刺客を退けたあとは、再び人混みを警戒しながら姫を護衛。
最後まで気を抜けなかったが、なんとか視察を終えた。
「今日は助かりました。あなた、とても頼もしいです」
「いや、頼もしいとかじゃなくて、めっちゃ胃に悪いんですけど!」
別れ際、姫は笑顔で手を振ってくれた。
……まぁ悪くない経験だったかもしれない。
現実に戻ると、博士が椅子に座りながら缶コーヒーを開けていた。
「おぉ、生きて帰ったかユウマ坊主。どうだった初仕事は」
「どうだったもこうだったも……完全にSPじゃないですか。刺客とか出てきましたよ!」
「そりゃ護衛バイトだもん。刺客の一人や二人はサービスだろ」
「そんなサービスいらないです!」
「まぁまぁ、ほら日給三万」
茶封筒を渡され、札束を見て思わず黙る俺。
博士は満足そうに笑った。
「どうだ?また来るか?」
「……財布がピンチになったら」
「ハハッ、それで十分だ」
博士は俺の帰還記録をノートに書きつける。
「本日の業務――王国姫の街視察護衛。観察結果:異世界における護衛業務は予想以上に社会的需要が高い。姫は護衛に対し一定の信頼を示し、対価として感情的評価(“頼もしい”発言)を付与。……ふむ、異世界においても『労働の対価=金銭+承認』の傾向が見られる」
その横顔は研究者というより、妙に楽しそうなおっさんだった。
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