青い目
結局絶望の淵に立たされたまま、寝付けずに一夜明けて、俺達はもう一度月の表面に出ることになった。
「畜生!ここまで来たらもう最後まで行くしかねぇじゃねぇか」
ルーガは既に決意が固まっていた。
「よし、全員いるな!」
「そういえば……ヘレナは?」
周りを見渡すと、リカはいるのにヘレナはいない。
そんなはずはない。
「リカ、ヘレナはどうした?」
「ヘレナ様は……裏切り者です」
そういうと上官が俺たちの話に割り込んできた。
「おい!お前は裏切り者をどうした」
「殺しました。裏切り者が生きていれば、それだけで我々はパニック状態に陥ります」
そういったリカはポケットからとある骨を取り出してみせた。
「これはヘレナ様の首の骨でございます」
俺はゾッとして思わず目を見開いた。
俺だけでなく皆が驚きを隠せていないようだ。
「骨のことは分からないから断定はできん。しかし……殺してしまったら何を話を聞けないじゃないか。まあいい、我々にはこれから任務がある。まずはそこに集中しろ」
上官はそう言うと、俺達を昨日と同じ月世界の扉に案内した。
「さあ、お前たちの任務は戦うことではない!生きて帰ることだ!忘れるな!」
「はい!」
扉を越えると、そこは昨日と同じ月世界。
夜型部隊が夜の間中戦ってくれていたおかげで、月地下世界はまだ保たれている。
俺達は宇宙防具を身に着けて月世界へ放り出された。
「行くぞ!」
もう戦うしかない、そう覚悟を決めた俺はAIに飛び込んだ。
AIの目が赤く光る。
「さあ、来い」
AIは姿勢をかがめたかと思うと、勢いよく俺に向かって飛び出してきた。
今までより数段速い。
(でも、このまま突っ込んでくれれば……)
俺はAIよりもさらに姿勢を低くして斜め下から顔めがけて撃ち込んだ。
それは見事にAIの脳に的中し、AIは静かに倒れた。
もう一歩遅れていたら、刺されていたところだった。
俺は一息つくと、また気合を入れ直して、AIと目を合わせた。
今度のAIは横に素早く動いてくるせいで焦点が合わせづらい。
(それでも、いける!)
動きのリズムは一定だ。
そこで動くときに必ず脳髄が通る動きの中心に焦点を定めた。
「今だ!」
俺はタイミングを合わせて引き金を引いた。
その瞬間、時が止まった。
AIが、屈んで銃を避けたと思うと、そこから腕をしならせて攻撃してきた。
足だ、足を狙われている。
俺は飛んでその腕を避けた。
あのスピードでは、到底軌道を変えることはできない。
次に来るとすれば、2つ目の手だ。
(そこを狙えば……)
そう思った頃にはもう既に目の前に腕が伸びてきていた。
「っ…!」
俺はギリギリで後ろに避けたあと、AIに銃を撃ち込んで、なんとか倒しきった。
しかし、宇宙防具の表面が、微かに破けていた。
宇宙という空間は、人間には過酷すぎるために、宇宙でも生きられる宇宙服を改良したのが宇宙防具だ。
こいつが切れてしまっては、俺は生きられない。
俺は物陰に身を潜めながら、宇宙防具に慎重にテープを貼った。
かすっただけだから、奥まで切れているわけではないし、そこまで大したものではない。
よし、もう一度戦場へ出よう。
俺は、地球が見たいんだ。
俺がここに立つ理由があることを再確認した俺は足を動かそうとしたが、目の前にはAIがいた。
銃に手が届くまでの時間は稼げなさそうだ。
「おい、俺は死ぬのか?」
AIは俺に近づいてきて、俺はいよいよ死を覚悟した。
その時、AIは自身の右手を差し出した。
AIの目は、青いままだった。
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