銀髪の少女

 次の日は、銃の扱い方についての授業と実技練習だった。


 この銃は対AI用に威力が極端に高い。


 しかし、そのせいで反動が大きく、安定的に扱えるまでに半年はかかるそうだ。


 俺は本能的にこれが苦手だと察した。


 握力が元々人より少ない俺は、打つとき誰よりもブレてしまう。


「カイン、下手くそだな」


「うるさいな」


 ラグルスは、10発ほど撃ったところで、少しずつブレが少なくなっていった。


「でも、まだ全然狙えるほどじゃねぇな」


 2時間ほど打ったところで、教官は俺達に切り上げるように言った。


「腕が疲れている状態で打っても上達しない!ここまでだ。やりたいやつは好きにしろ」


 教官はいつもの如くひとりでにその場を去ると、その後を追うように一人、また一人とこの練習場を出ていった。


「先行くぞ」


 ラグルスもこの部屋を出たが、俺はもう少し練習したいと思い、この部屋に残った。


 すると、もう一人、女の子が残っていた。


 不思議なことに、彼女が撃ったであろう銃弾の跡は、全て模型の脳の中心に集まっている。


 銀髪で青い目をした小柄の彼女は、銃を構え目を細めた後、銃を撃つと同時に肘を曲げ、真後ろに手を伸ばした。


 その銃弾は、またもAI模型の脳の中心に当たった。


「何故……手がブレてるのに当たるんだ?」


 彼女はこの部屋ごと一気に凍りつくような冷たい視線を向けた。


「バカね……衝撃を逃がしているの」


 俺には訳がわからなかった。


「いや、世の中みんなバカだわ。ブレを逃がしたほうがよっぽど簡単なのに」


「なあ、そのやり方、教えてくれないか?」


 彼女は俺に軽蔑的な目を向けると、ええ、とだけ答えた。


「打つと同タイミングで銃を真っすぐ後ろに引くの。しっかり狙えば、うまくいく」


 俺は彼女の言う通りに打ったが、上手くいかずにブレてしまった。


「……下手くそ」


 そういうと彼女は俺の後ろに回って俺の手の上に手を重ねた。


「いい?打ったら、この手を後ろに引くのよ」


「……」


「聞いてる!?」


「ああ、うん」


 少し緊張している気がするが、彼女はそんな事を全く気にしていないようだから、俺も特に気に留めないことにした。


「行くわよ」


 彼女は言った通り、打った瞬間真後ろに手を動かした。


 すると、その銃弾は見事脳の中心に命中した。


「銃弾が前に飛んだら反作用の法則で銃の本体は後ろに行こうとするでしょ、そこでむやみに対抗せずに流すの。そしたら銃弾の方もいうことを聞くわ。それに、後ろにやると前に位置を戻す時に、そのまま銃弾を装填できる」


「なるほど……」


 無駄がなくて、握力が無くてもできる、綺麗な打ち方だ。


「やってみて」


 俺はもう一度同じように狙った。


 打った瞬間、肘を曲げて真後ろに銃を持っていった。


「ドン!」


「やった!初めて模型に当たった」


「すれすれじゃない」


 彼女は相変わらず見下すような視線で俺を眺めた。


「もう一回私がついてあげる」


 そうして彼女は俺の手に手を重ね、もう一度さっきと同じ形をとった。


 その時、後ろから足音が聞こえた。


「あれ?二人とも何してるのかな?」


 奥からヘレナがやってきた。


「へぇ、その二人繋がってたんだ」


 彼女はヘレナを強く睨むと、俺から離れた。


「あなたは帰りなさい」


「一緒に帰ろ?」


 ヘレナはさらっと俺と彼女を引き剥がした。


 この部屋を去る前に、彼女は俺の耳元で呟いた。


「また明日」


 どうやら、彼女は俺に好意を向けているらしい。


 そういった考えるだけ無意味な妄想を膨らませていた俺は、そんな自分の存在に気づき、頭を振ってから部屋を出た。


 綺麗な銀髪のあの人に、明日も会えるだろうか。

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