地球を夢見て

 あれから一夜明けて、8時に授業室に全員が集まると、昨日のレイス……いや、教官が現れ、俺達を睨みつけた。


「いいか!?お前らが飛び込もうとしている世界は戦いの世界だ!雑魚がその場にいるというだけで、死に直結する。そんなお前らを雑魚から仕立て上げるためにいるのが俺だ。では早速授業を始める」


 最初は意外にも戦わずに、AIという敵について様々な話がされた。


 よく考えれば、それが正しい勉強法だ。


 相手の戦術、弱点、動き、それらを分かっていれば、生存率は一気に跳ね上がる。


「いいか?AIの身体構造も基本人間と変わらない。つまり脳を破壊すればいい」


 一見単純な話だが、それが単純でないことはよくわかっている。


「AIの脳を破壊する方法は、これまた単純に脳の中心に銃を打ち込む。簡単だろう。ただし、近づきすぎると、AIは自らの頭を爆発させ、我々を巻き込んでくる。奴らは執念深い、遠くから確実に奴らの脳の中心を撃ち抜く必要がある」


 それから、AIの攻撃手段である様々に対処する方法の話がされた。


「さあ、お前らに必要なのは基礎体力だ。午後はひたすら筋トレするぞ。お前らは食堂で英気を養え」


 教官は部屋から出ていった。


「行くぞ」


 ラグルスは俺の腕を引っ張って食堂に無理やり連れていった。


 食堂に入ると、もう人数分の食べ物が置いてあった。


 いざご飯を食べようとすると、一人の女の子が来た。


「ねぇねぇ、一緒に食べてもいい?」


「ああ、構わないよ」


「ありがと!私ヘレナ。ねぇ、私さ、地球に行ってみたいんだよね!一度だけでもいいから」


 ヘレナは椅子に座った途端、流れるように話し始めた。


 しかし、彼女はどうにも俺と同じ事を考えているようだ。


「わかるよ」


 そういうと、ヘレナの顔がみるみる明るくなった。


「まじで!?あ、でもね……」


 そう言うとヘレナは逆に恐ろしいほどに落ち着いた。


「その話、周りにしないほうがいいよ」


「やっぱり、親の思いできてる人が多いってこと?」


「まあ、それもそうなんだけど、AIに親を殺されてきてる人もいるから。そんな人の前では言えないよ」


「ああ」


 確かに、ここに来るのであればそれが一番順当な理由なのかもしれない。


 でも、俺は……


「でも、地球には憧れるよな」


「そりゃそうだよ!そしたら私は今ここにいないもん!」


「お前ら喋ってねぇで早く食え」


 ふと見ると、ラグルスは、とうにご飯を食べ終わっていた。


「あ、ごめん」


 ヘレナはすごい勢いでご飯を搔き込むと、先に席を立って去っていこうとした。


 しかし、立ち止まってこっちを振り返った。


「二人とも、名前は?」


「カイン」


「ラグルスだ」


「ありがと!じゃあね」


 ヘレナはまるで何もなかったかのように走り去っていった。


「騒々しいやつだ」


「でも、俺とたぶん目指す場所は同じだよ」


 ラグルスはつまらないとでもいうふうに鼻を鳴らすと、行くぞ、と一言言って去っていった。


 世界は、どれだけ残酷なんだろうか。


 地球に夢を持つ少年は、他の無気力な人達を、少しだけ哀れんでいた。

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