第3話

 国を創るのなら仲間を募らないといけない。まあ国じゃなくても第三者、中立な組織なら何でもいいけど。


 でも、国と敵対したとき、国に負けない力をもっておかないと潰される。


 滅ぼす力は僕とディアが持てばいいけど、情報収集の力には数がいる。


 だから、仲間を探すことにした。目標、僕を除いて9人。1人はディアだからあと8人。


 いなくなってもバレない孤児がいいな。


 もちろん、強要はしないよ。コンプラインス違反だからね。


 というわけで、夜皆が寝静まるのを魔力で確認してから家を出る。


 もちろん、騎士に気づかれないように静かにだ。


 孤児と言ったらスラム街。そこで、魔力の多そうな子を探そう。


 スラム街につくと、道端に多くの人が寝ているのが目に入った。


 あるものは酒臭く、あるものは甘い匂いがする。そんな匂いが混ざり、なんともいえない嫌な匂いがスラム街いっぱいに充満していた。


 そこで、少し綺麗な格好をした集団に気づく。集団と言っても2、3人だがスラム街に似つかわしくない雰囲気が浮いていた。


 何かするなら僕みたいにボロぎぬを羽織らないと邪魔されるよ。


 と心のなかでアドバイスをしつつも、僕には関係がないから無視して奥へと進むことにした。


 進んでいると、ひときわ多く魔力を持つ子供に気づいた。魔力量はディア以下2流以上だろうか。


 魔力は鍛えると増えるとはいえ、子供としては120点だ。


 よし、この子をスカウトしよう。


 声をかけることにした。


「やぁ、今宵はいい月が見える。ところで、私と一緒についてこないか?」


 少し背伸びをした口調で舐められないように話しかける。


「嫌だ、私には守るべき家族がいるから。君もアイツラの仲間なの?でも、見た目は汚いね。どっちにしたってついてはいかない」


 まだ幼い女の子の声だった。


「なら、君の家族も迎え入れて、私が守ってやろう。もちろん君たちには働いてもらうがね」


「嫌だ。君もあの変な大人に何か言われたの?やめておいたほうがいいよ。絶対に怪しいから」


 断られた。強引な勧誘はしないって決めたからここまでだ。


 良い人財なのに惜しいな。


 ところで、変な大人って誰だろう?


 入口にいた綺麗な格好の人たちかな。スラム街にあの格好は確かに変だし。


 でもあの人たちにも勧誘された。って口ぶりだったから、魔力量を察知する技術があるのかな。


 それ以外でスラムの子供を勧誘する理由はないだろうし。


 魔力量を察知する技術は一般的なんだ。残念。僕だけの能力だと思ったのに。


 ドォン


 気を取り直して勧誘を続けようと思ったとき、何処からか爆発音がした。


 うん? この魔力、さっきのあの子が何かと戦ってる。気になるから見に行こう。




 ◇




 さっきの場所に戻ってみると、さっきの子供と思われる銀髪の綺麗な女の子がスラムの入り口付近にいた集団と戦っていた。


「嫌だって言ったでしょ!」


 女の子の怒声が飛ぶ。


 それに構わず集団の一人が唱え、一人が口を開く。


紅炎プロミネンス


「最後にもう一度聞こう。お前が断れば、お前の大好きな家族もお前も死ぬぞ」


「ね―ちゃん...逃げて!」

 首元を掴まれた少年涙を流しながら必死に叫ぶ。


「ッ...卑怯者」

 女の子は泣きそうな声で叫ぶ。


(4人がかりで襲うなんて良くないな。流石にもう見てられない。僕は僕のしたい事をさせてもらうよ)


 諦めかけたその時、何処からか子供の声が聞こえた。


「助けが欲しいか?今なら無償で助けてやろう」


 聞き覚えのある声だ。だが、弟が人質に取られている今考える時間が惜しかった。


 その後のことを考える余裕もなく叫ぶ。


「助けて!」


「いいだろう」


「お前たちは魔法を使うに値しない。素手でその腐った性根をくだいてやる」


 その声がしたと同時に、3人が後ろに吹き飛ぶ。ドォンという爆発音にもにた音がなった。




 ◇




 綺麗な格好をした男は心のなかで考える。

 今何をされた? 彼奴等は魔術師、剣士としては二流だがかなり腕が立つ。


 今目の前にいる奴―子供一人にやられはずがない。そう考えていると、子供が口を開いた。


「クク、ああ、失礼。弱すぎて笑ってしまった」


 その言葉に苛立ちを募らせた。確かに手も足も出ずにふっとばされたが、この餓鬼にやられたはずはないと、こんな奴に愚弄されてたまるかと。


「あ?お前は何もしていないだろう」


「可哀想に、何をされたかすら理解できないとは」


 男は思った。こいつは生きて返さねぇと。


「黙れ!お前は俺に勝つことはできない」


 男は走る。魔力で強化した足を持って。高足で駆ける。


 それに対して、子供は俊足で駆ける。


 やっぱりな、餓鬼にしてはできる方だが彼奴等を吹っ飛ばしたのはコイツじゃない。


 こいつを殺せば吹っ飛ばした奴も出てくるだろ。すぐに片付けてやる。


 だが、予想に反して攻撃が当たらない。振りかぶってもギリギリで避けられ、カウンターを与えられる。


 子供の力は大したことがなく、魔力を通していたとしても致命傷にはなり得ない。


「はっ、戦い方は申し分ないが威力はお粗末だな。子供の身体では筋力が、魔力が足りない。せめて、剣を持っていれば良かったものを」


 男は勝利を確信した。だが、それは甘かった。


 子供が何かを言う。


「潮時だな、お前にはこれ以上の力が出せない。面白くなくなる前に一撃で葬ってやろう」


 そう言うのと同時にノクスの右手に魔力がこもった。とてもとても圧縮された魔力が。


 だが、男には感じられなかった。聞き取れなかった。代わりに、凄まじい激痛が身体に走り、意識が遠のいていくのを感じた。




 ◇




 ふう、まあまあいい感じだね。魔力を圧縮して放つだけの魔法とはいえない攻撃。でもこれが1番魔力効率がいい。名前はどうしようか。


 そう考えてると後ろから声をかけられた。


「ねぇ、君はさっきの...。助けてくれてありがとう」


「うん。どういたしまして。じゃあ、僕が勝手にしたことだから帰らしてもらうよ。少し音が大きかったから、君たちも帰ったほうがいいよ」


「待って。まだ私を勧誘したいって思ってる?」


「それはまあそうだけど、無理はしなくていいよ」


「じゃあ私たちを入れて」


「いいの?歓迎するけど」


「中立ということは私達がいい牽制になって争いが少なくなるかも知れないでしょ」


 たしかにそうかも知れない。考えたこともなかった。


「あなたに助けられたから生きていられているようなものだし、あなたがトップなんでしょ?」


「そうだけど。弟くんは大丈夫?」


「それなら信じられる。よろしくね」

「俺もねーちゃんに従う」


「活動内容話してないし、もしかしたらこの国と敵対するよ?」


「大丈夫。私は―」


「待て、君達には今から別の名前を名乗ってもらう。姉の方は私、太陽ソルの次に魔力が多いから金星ヴィナを、弟は赤毛だから火星マーズを。これからよろしく頼む」


 部下への接し方は大事。だから少し口調を変える。


 そして心の中で、ニヤリと笑った。


 よし、これで仲間ゲットだぜ!








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