第2話 最高の環境
俺の名は
祖父が古流剣術なる古い一子相伝の剣術とやらの使い手で、その後継者に選ばれたせいか、子供の頃から祖父にその古流剣術を叩き込まれて育つ事となる。
まあ中途半端に、だが。何故なら、祖父は俺が十歳の時に病死してしまったからだ。そのため、俺の腕は免許皆伝からは程御遠い物となっていた。まあ十歳で皆伝は無理よ。
それから十年。祖父の死を契機に剣術訓練を止めた俺は、剣の毛の字もない人生を送る事に。そして二十歳になり少し経ったところで――
俺は死んだ。
死因は別に劇的な物ではない。単なる交通事故だ。ほぼ即死。そして気づいたら、俺は神様の元にいた。そして神様の手によって転生する事に。行き先は魔法のある世界。そこは――
「やれやれ」
意識を取り戻した俺は、起き上がって周囲の様子を確認する。
「まるで爆撃痕だな」
付近一帯が焼き焦げており、周囲には焼け焦げた無数の死体が転がっている。全て魔法に巻き込まれて死んだ者達の、成れの果てだ。そこに敵も味方もない。魔法による攻撃とはそういう物である。
俺も魔法で死んだ訳だが、こうして起き上がってこれたのは転生チートのお陰だ。
【無限蘇生】。それが、俺が転生する際に神から授かったチートである。個人的にはこういった受け身な物より、もっと能動的かつ即効性のある強力なスキルの方が良かったのだが……そういう類の力を授けると、転生先の世界のバランスが崩れかねないため与えられないと、要望したが断られてしまっている。
「まあ不死も便利ではあるんだけど……そもそも、強かったら死なずに済む訳だからな」
まあボヤいても仕方ない。俺は先ほど地面に置いた盾を回収する。
この木製の盾も、本来なら消し炭になっていないとおかしい。それ程の攻撃だった。だが盾には焦げ跡一つ見当たらない。理由は簡単だ。俺の蘇生は、所持品や装備も復元してくれるからだ。なので、服なんかも再生して元に戻っている。
地面に置いていたので、盾は装備していなかったのではないか? 一時的に手放しただけなので問題ない。完全に所有権を放棄したならアウトだが、戦いのために一時的に置いただけなら、俺の所有物として扱われる仕様だ。
「さっさと合流しないと」
魔法の爆撃を受けて、この辺りで戦っていた奴らは死ぬか逃げるかしている。そのため戦線が動き、今の俺は戦場で一人ぽつねんと立っている状態だ。これでは無駄に目立って仕方ない。最悪、友軍から敵前逃亡と捉えられかねないので、さっさと味方に合流する必要がある。
なにせ下級兵士、正確には、下級市民には魔法の刻印が刻まれているからな。
刻印は呪いに近いものだ。上位者からの位置の把握。それに罰として激痛を与えたり、命を奪う機能も備わっている。なので敵前逃亡とみなされてしまうと、俺は罰の激痛か、もしくは処刑を受ける事になってしまう。
「不死とは言え、傷みを感じない訳じゃないからな」
死ぬ際には、相応の苦しみがある物だ。なので、死んで生き返られるとしても、敵前逃亡のレッテルを張られて処刑されるのは歓迎すべき事でなかった。
正式に処刑され死んだ事になれば、戦場から解放されるのでは?
それは無理だ。通常、死ねば刻印は消える。だが【無限蘇生】の効果で蘇生すると、刻印の効果も蘇ってしまうのだ。どうも所持品なんかと同じ扱いらしい。そのため処刑されても、刻印のせいで俺はその位置や動きが把握されっぱなしになる。なのでこの状態で逃げ出しても、直ぐにバレてしまう訳だ。
因みに、蘇生は周囲の認識を書き換える効果があった。死亡したという事実自体が消えてしまい、その際、何故死んだのかなども周囲の記憶から消えてしまう。なので、仮に俺を殺した奴の目の前で生き返っても、そいつは俺が生き返ったとは認識せず、単に殺せなかった、もしくは別人と認識する事になる。
つまり……周囲は俺が無限蘇生している事には、絶対気づかないって訳だ。そのお陰で不死身という特殊体質を隠さずに済むので、大助かりとなっている。この手の能力は認識されると、碌な目に合わないというのが相場だからな。
ああ、戦場で死にまくってる時点で碌な目には合っていない。そう思う人間もいるかもしれないが、俺はこの環境を、満更悪くないと考えていたりする。なんというかこう……充実感があるのだ。
端的に言えば……俺は戦いが好きだ。
平和な日本で生まれ。子供の頃に剣術を習っていたとはいえ、死ぬまでの間に誰かを傷つける様な事はなく。そんな風に、平凡な人間として短い生涯を生きた俺。
だが、あったのだ。俺の中に。まるで野獣の様な、戦いを渇望する本能が。そして俺はこの世界に来て、戦場に立って、初めてそれに気づかされた。そう、俺は戦いが好きなのだ。
敵を殺す事に罪悪感はなかった。痛みや苦痛、そして死は不快ではある。だがそれ以上に戦いが楽しい。だから今の俺の、この戦場での生活はとても充実した物となっていた。なので最高、もしくは最良の環境と言っていいのかもしれない。
レベルアップで、他の人間より明らかに強くなる速度が速いってのもあるしな……
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