濡れたゼッケン

兼穂しい

第1話

(やべぇ、寝坊した。みんななんで起こしてくれねえんだよ!)


焦る直樹。


駅伝選手の補欠とはいえ遅刻など許されるはずもない。


宿の玄関で慌てて靴を履いていると後ろから声をかけられる。


「直樹くん!」


「真由美ちゃんも寝坊したの!?」


「うん!」


緊急事態だがピンクのジャージ姿の真由美に見とれる直樹。




* * *




小走りで競技会場へ向かう二人。


タクシーアプリを何度も確認するが、この辺りに車はいない。


「ダメだ・・・。もう絶対間に合わねーよ。」


「直樹くん、あれ!」


前方に大きな建物と立て看板を見つける二人。


「あれは競技場じゃないよ。でっかいディスプレイ観ながらみんなで応援するってヤツか・・・。いいや、もう入っちゃおうよ。間に合わないんだし。」




* * *




入口で86番のゼッケンを渡される。


(ゼッケン着けて選手気分で応援しようって趣向か?)


「お二人は参加ですか?それとも鑑賞で?」


顔を見合わせる二人。


質問の意図がまるでわからず「鑑賞で」と答える。


「そうですか。こちらの通路を真っすぐお進み下さい。」


指示に従い進んで行くと衝撃的な光景が広がっていた。


ゼッケンを着けた全裸の男達が、対面立位で全裸の女性パートナーを抱きかかえ狂ったように腰を突き動かし続けている。


「あ・・・。違う!ここ駅伝じゃなくて駅弁だ!」


「エキベン?」


意味がわからないウブな真由美。


「出よう!」


真由美の手首を掴み引き返す直樹だったが入口受付で立ち尽くす。


「どうしたの、直樹くん?」


真由美の顔を、次に身体を舐め回すようにみつめる直樹。


「直樹くん?」


「86番エントリーお願いします!」


「直樹くん!?」


「参加でしたらそちらの更衣室をお使い下さい。」


真由美の手首を強く握り更衣室へ進み始める直樹。


「あ・・・。」


困惑しつつもジャージ上着のジッパーを下げる真由美。


二人の情熱的な「本番」が今始まる。



~ Fin ~

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濡れたゼッケン 兼穂しい @KanehoShii

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