第2話 田村仁の独り言①

小生はストーカーではない。


この点は明確に否定させていただこう。


小生は来栖一葉のファンなだけなのだ。ストーカーと呼ばれるのは心外である。まぁ、そう取らえられても仕方がない、という思いもある。ついつい彼女を目で追ってしまうのだ。四六時中と言ってもいいのかもしれない。


いや。それもでもやはり、ストーカーは心外である。小生はもっと気高く、志高く彼女の生態を観察しているのだ。


来栖一葉との出会いは、小生が高校受験を終え、一年二組に振り分けられたことに始まる。来栖一葉もまた、一年二組だったのだ。


「来栖一葉です。大阪生まれ、大阪育ちです。親の仕事の都合でつい最近東京に引っ越してきました。口が悪いってよく言われます。趣味は特にないけど…強いて言うなら美味しいものを食べることが好きです。よろしくお願いします」


クラス一人一人の自己紹介。関西のイントネーションを含んだ彼女の自己紹介は、皆の興味を惹いていたように思う。


だが小生だけは、このクラスで小生だけはとてつもない衝撃を受けていた。


生まれて初めてと言ってもいい程の驚きだった。


…小生は人のオーラを視ることが出来る。


意識を集中させれば、その人間がどんなオーラを発しているかを視れるのだ。自己紹介をするクラスメイトを一人一人観察し、「この人は優しそうだ」とか「こ奴には近づかないでおこう」など、勝手に分析をしていた。オーラを視れば、その人間がどんな性格なのかなど、簡単に判別がつけられるのだ。誰と友達になれるか、クラス替えのときはいつもオーラ観察をしている。


自己紹介をしている来栖一葉のオーラは、金の竜巻のようだった。


オーラが湯水のように湧きだし、勢いが強すぎて渦を巻きながら天井に伸びている。一般人のオーラは、人の体から色の付いた靄がじんわりと出ているに過ぎない。肌から二~三センチぐらいを靄が包んでいるのが普通だ。


だが彼女はどうだ?水道管が破裂して、地面を突き破り水が吹き出ているようなとんでもない量のオーラだ。


しかも、金色のオーラなどみたことがない。一体金色はどんな性格の持ち主なのだ?自分の中に一人も金色のデータがないから、何も分析ができない。何なのだ。来栖一葉は一体なんなのだ。


どうやら、小生はとんでもない人間を見つけてしまったようだ。


このとき、小生は不思議な義務感を抱いた。


【高校生活の間に、来栖一葉を完璧に研究しなければ】


そう。これは研究だ。決してストーカーなどではない。学者と同じなのだ。真実を探求し続ける研究者、とでも呼んでもらいたい。


うん。


そういうことにしておこう。


そんな来栖さんとの接点ができたとある事件について、説明したいと思う。

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