悪役令嬢、気ままに冒険満喫中

パルラコ

第1話 婚約破棄よりも、冒険が大事ですわ!

 


「マヤリカ・ディーノズッ!」


豪奢な会場に無駄に響き渡る怒声じみた叫び声に、わたくしは嫌な予感をひしひしと感じながら壇上へと目を向けた。

久しぶりにお会いになられた婚約者の第3王子殿下は、一人壇上にてふんぞり返りながら私を睨んでいた。

一方私は、何か脳の奥で引っかかったような痛みを感じもういっそ倒れたいと思っていた


「ジャナス・ディン・グヴィータ殿下。発言の許可を頂けますか」

「ふん、最後の悪あがきか……それもよかろう!

 今日!この華々しい場を借り、貴様の悪事が白日の元に晒されるのだ!」

「私の悪事、とは」

「貴様は私の愛する!愛しく可愛らしいテシュナを虐めた!

 それは有り得ない愚行!犯罪者め!」

確かにいじめは犯罪行為でしかありませんが、いや違うな……そんなことよりも。

冷めた気持ちで投げやりにならない程度に問う。

「そうですか、では私はどうなるのでしょうか」

「貴様の罪を鑑みても重罪だが、私とテシュナの慈悲に免じ……私との婚約破棄をし国外追放だ!

 二度とこの国の地を踏むことは許さぬ!」


その言葉を聞いた瞬間、引っかかっていた何かは簡単に取れた。

わたしは、茅野梨香かやのりか

こことは違う世界……日本と言う国で生まれ育ち、死んだ。

それ以外はあまり思い出せないが、まぁ今は関係ないから置いておくとして。

じゃあこの世界はなんだ、てかどこだとか思い返すとどうやらここは乙女ゲームの世界、らしい。

「天、光と闇は愛交わって」と言ういかにも乙女ゲームらしいが、中身はストーリーもだがシステムもかなり作り込まれた冒険MMORPGである。

異世界、主にラノベが大好きで憧れていた私も最初はイケメン目当てだったが……イケメンそっちのけで冒険についのめり込んだ。

ストーリーとしては簡単に言うと、ヒロインは聖女として王子や攻略対象と婚約し絆を深めて魔王を倒す、または和解する話である。

冒険システムは戦術やらゴリ押しやら、様々で多様なプレイを限りなく採用していた。

片手間にやる錬金術や薬作りのミニゲームも凝っていて凄く楽しかった!

あぁでも転生しちゃったからもう出来ないんだ……すごい悲しい。

いやそれより、私マヤリカ様の中と言うか身体がっつり乗っ取ってるけど大丈夫かな!?

大丈夫じゃないよね!あ、でも、思い出した時に僅かにマヤリカ様の記憶を知ったのだ。

マヤリカ様は、実はダメ王子と婚約したくなかった。

だからわざとキツめのことを言ったりヒロインを虐めたりしていた。

つまり、この状況はマヤリカ様の予定通り!

因みに私がマヤリカ・ディーノズを様付けしているのかと言うと単純に推しだからである。

だから、推しが苦しんだり辛い目に合うなんて耐えきれない。

せめてマヤリカ様が幸せになれるようにこの場を切り抜けねばならない、さっさと終わらせよう。


「了承致しました、では第3王子殿下と、私の家族との絶縁状を書かせて頂きますわね」

「おぉ!素直……にっ?……何を、言っているんだ?」

「これは償いでございます、殿下……貴方様に恋をし、愛し、醜い嫉妬で貴方様の真に愛しい方を傷付けてしまった私からの、最後の償いです」

「お、おぉ?」

……この王子ってか攻略対象、こんなバカだったかな?

もうちょい周りに勘づかれない程度には反応してくれないかな?馬鹿だから無理か。

あぁだめだめ、今はしおらしくしなきゃ。

「罪は甘んじて受け入れましょう、殿下。それでは、ごきげんよう」

優雅なカーテシーをし、会場から足早に去った。




それから私は、一旦家に帰って絶縁状と……要約すると「さっさと絶縁して?それとその後のことに口を出したり探すなボケ」と言う手紙を置いた。

最低限金になりそうな宝石を持ち……流石マヤリカ様、動きやすそうなラフなブラウスワンピースを隠していた!

これなら冒険もしやすそう!

それに着替え、私は家を出ていった。


今までありがとう、二度と訪れないことを願って、さよなら。


そんな嬉しさを隠しきれないマヤリカ様の声が、聞こえたような気がした。

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