あなたがくれた一冊の本

ねむれす

#1

「あれ…?ここはどこ…?」

知らない場所で目が覚める。ぼーっとしていると、部屋に人が入ってきた。

「失礼します。ご飯を届けにきましたー」

ナース服を着た女性がご飯の乗ったおぼんをもって、私のところへ近づいてくる。

女性が私のことを見るなり、驚いた表情でご飯を机に置いて部屋を出て行った。

何が起こったかわからず混乱していると、部屋の外から大きな声がした。

「先生!彩華さんが目を覚ましました!」

「なんだって!?斉藤さんはいますぐ彩華さんの両親にすぐ来てもらうように連絡してください!」

「はい!」

あやか…?目を覚ました…?あやかって私の事…?と訳がわからずにいると、病室に白衣を着た男性が入ってくる。

「彩華さん。やっと目を覚ましたんですね。今あなたの両親が来られるところなので少し待っていてください。」

どうやら私は彩華というらしい。言われてみれば、私の名前は彩華だった気がする。どうしてこんなに曖昧なのか。それは、私はこの部屋で目が覚めてから何も思い出せないから。

今の所わかっているのは、私があやかだという事、しばらく目を覚ましていなかったということだけ。

まだはっきりとわかったわけじゃないけど、おそらくここは病室だと思う。

なんで私が病室にいるかも思い出せないけど、両親が来たらわかるかもしれない。

そう思って、おとなしく両親を待つことにした。


しばらくすると、部屋に両親と思しき人物とさっきの男性たちが入ってきた。

「彩華…!やっと目を覚ましたのね!目を覚ましてくれてありがとう…!」

涙ながらにそう話しかけてくる中年の女性はきっと私のお母さんだろう。

そしてお母さんの隣でずっと泣き続けている男性はお父さんだろうか。

そんなに私は眠っていたのか、と少しびっくりしてしまった。

もしかしたら両親ではないかもしれないし、一応両親か聞いてみることにした。

「あの、誰かわからないんですけど、私の両親ですか?」

「えっ!?私たちは彩華のお父さんお母さんよ!忘れてしまったの…?」

両親はがっかりした表情を浮かべている。私は両親を傷つけてしまった?

私の予想はあっていた。やっぱり分かってたフリをしていた方が良かったのかな、と今になってあの発言をしたことを後悔している。

白衣を着た男性が口を開く。

「頭を強く打ったことによる記憶喪失かもしれません。とりあえず、何か覚えていることはないか確認してみましょう。」

「とりあえず、自己紹介しておきましょう。私はこの病院に勤める鈴木と申します。よろしくお願いします。」

どうやら鈴木さんや両親の話を聞くと、私は階段から落ちて緊急搬送され、5ヶ月も目を覚まさない状態だったらしい。

その時頭を強く打ってしまったのか、私は記憶喪失になってしまったらしい。

階段から落ちた時近くにいた人に話を聞いたところ、誰かが突き落としているように見えたとか。

「まあ、何かのきっかけで徐々に記憶を取り戻すかもしれません。しばらく様子を見ましょう。」

目覚めたばかりで調べることがたくさんあるらしくまだしばらく退院できないので、これからどうしようと考えていると、お母さんが声をかけてくれた。

「彩華が私たちのことを忘れてしまったのはとても悲しいけれど、目が覚めて良かった。色々あってしばらく退院できないらしいから、暇つぶしに本をあげるわ。この本には、最後が衝撃的な話、平和な話、日記のような話、いい話、つまらない話、なんの捻りもない話…まだまだたくさんの話が入っているわ。お母さんがよく読んでいたから、記憶を取り戻す手掛かりになるかもしれないわね。」

そういってくれた本はとても分厚くて、一目見てとても読まれている本だということがわかった。なんだかお母さんの温もりを感じる気がした。

「ありがとうお母さん。大切に読むね。」

これからたくさんの物語が読めるのだと思うととてもワクワクする。

壮大なストーリーが今始まるんだ…!

私は早速本を開いた。

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