︎🌟第7話 「図書館と夜の灯り」

夕暮れの鐘が鳴り響き、校舎から生徒たちが一斉に寮へと帰っていく。

 空は茜色から群青へと変わり始め、寮の窓には一つ、また一つと灯りがともった。


「ふぅ~……今日はすっごく疲れたぁ!」

 部屋に戻るなり、ルナがベッドへとダイブし、羽毛布団に顔を埋める。

 ドサッと沈んだ拍子に枕が弾み、反対側の床へ落ちた。


「ルナ、枕……」

 真凜は苦笑しながら拾い上げ、ルナの胸の横へ置いてやる。

「ありがと~。ねぇ真凜ちゃん、授業は楽しかった?」

「うん……少し緊張したけど。でも、なんだか少しずつ魔法を理解できてきた気がする」

「さすがだね。私は……あの煙で笑われちゃったの、ちょっと恥ずかしかったなぁ」

「でも、場を明るくしてくれたよ」

「……そ、そう?」

 ルナの頬がほんのり赤くなり、照れくさそうに布団をかぶった。


 一方、隣のベッドではシオンが机に座り、黙々と本を開いている。

 真凜がちらりと覗くと、そこには難解な古代文字で書かれた呪文集があった。


「それ……授業でまだやってない内容じゃない?」

「……そうだな」

「どうして?」

「いつ何が起きても対応できるようにしておく。ただ、それだけだ」


 短い答えに、真凜は小さく息をのむ。

 (やっぱり……シオンは真面目すぎるくらい努力してるんだ)



 夜の帳が下りるころ、三人は自然と図書館へ向かっていた。

 石造りの重厚な扉を開けると、そこには天井まで届くほどの本棚が整然と並んでいる。

 ランプの光が金色に反射し、古い紙の匂いと静けさが満ちていた。


「わぁ……! こんなに本があるんだ」

 ルナは目を輝かせ、走り出しそうな勢いで本棚の間へ駆け寄る。

「お菓子作りの本とかないかなぁ?」

「……魔法学校の図書館だぞ」

 シオンが呆れたように呟く。


「でも……」真凜は本棚を眺めながら小さく笑った。

「ルナなら、魔法のお菓子を作る本とか見つけちゃいそう」

「でしょ!? 魔法でふわふわのケーキとか、作れたら絶対楽しいよ!」

 ルナの声が響き、思わず真凜も笑ってしまう。


 その間にシオンは一冊の本を抜き取り、机へと向かった。

「……二人とも、うるさい」

 淡々とした声色だったが、耳の先がほんのり赤いのを真凜は見逃さなかった。



 やがて三人は机に並んで座り、それぞれの本を読み始めた。

 真凜は魔法史の本を開き、ルナは挿絵の多い入門書に夢中になり、シオンは黙々と古文書を読み進める。

 ペンの走る音とページをめくる音だけが、静かに響いていた。


 ――不思議だ。

 真凜はふと顔を上げ、二人の横顔を眺めた。

 ほんの数日前まで見知らぬ同級生だったのに、今は隣にいることが自然に思える。

 それだけで胸の奥が温かくなった。



 図書館を出るころには、すっかり夜になっていた。

 庭園のランプが点々と灯り、夜空には無数の星が広がっている。


「わぁ……すごい星……」

 真凜が足を止めて見上げると、ルナも隣で笑顔になった。

「ね、きれいだよね。なんだか眠るのがもったいないくらい」

「……俺は眠る」

 シオンが短く言って歩き出す。


 その背中を見送りながら、真凜とルナは顔を見合わせて同時に笑った。

 ――こんな風に笑い合える夜が、ずっと続けばいい。


 星々が瞬く夜空の下で、真凜は初めて心からそう願った。

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『真凜、模倣から始まる魔法学園譚』 優貴 @snowking0925

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