3話:ダンジョンメーカー


 エイジ・マグナスの身体の持ち主のことを考えて、俺が黙り込んでいると。


「私はエイジ君に力を与えた女神様に仕えているの。色々と事情を知っているのは、私が仕える女神様が戦乱の女神よりも上位の存在で全部お見通しだから。女神様の名前は言えないけどね」


 メイがドヤ顔で説明する。ちょっと空気を読もうか?


「つまりメイも本当はメイドゴーレムじゃなくて、名前も偽名ってことか?」


「そ、そうだけど……良く解ったわね。私は女神様に仕える大天使よ。この世界で本来の姿になったら戦乱の女神が直ぐに気づくわ。天界の存在の名前には言霊ことだま宿やどっているから、名前を言うだけでも気づかれる可能性があるわ」


 事情は理解したけど、そんな俺を見てメイがニマニマしているのは納得できない。何か企んでいそうな顔だな。


「話を戻すわ。エイジ君はまだ気づいていないみたいだけど……この部屋はダンジョンを創造デザインするための制作室エディットルームよ。ねえ、エイジ君。ダンジョンを作ることをイメージしてみて」


 まさか……試しにイメージしてみると、空中に『ダンションズ&マジック』のエディットツールの画面が表示された。画面に触れてみるとタッチパネルの感覚で操作できる。


 壁のスクリーンに映し出される映像も、どういう訳か俺の意思で自由に切り替えられる。エディットツールのデータと見比べながら、ダンジョンの中を順番に映し出していくと――


「このダンジョンって……『ラストダンジョン』そのものじゃないか!」


 『ラストダンジョン』は前世の俺が『ダンジョンズ&マジック』で作った最凶のダンジョンだ。自分が冒険者として攻略していたのに、今まで気づかなかったのは前世の記憶を失っていたからか?


 魔物やアイテム、冒険者の装備や魔法にも見覚えがある。全部俺がデザインしたものだ。試しにエディットツールでマップデータを書き換えてみると、変更した部分のダンジョンの構造が実際に変わった。


「本当にダンジョンを創造デザインできるのか……」


「このダンジョンを手に入れるために、戦乱の女神はエイジ君を無理矢理転生させたの。女神には人の思いと記憶を具現化する力があるから」


 ダンジョンを創造デザインする能力は、メイが仕える女神が与えてくれたそうだ。これが女神が言っていた『世界に抗う力』なのか?


 この世界には『ダンションズ&マジック』と同じようにステータス画面が存在する。俺がイメージすると、空中にエディットツールとは別の画面が表示される。


――――――――――――――――――――


名前 :如月エイジ 17歳

クラス:迷宮制作師ダンジョンメーカー レベル1


HP 10

MP 15

STR 15

DEF 14

INT 18

RES 17

DEX 15

AGI 15


[スキルリスト]

迷宮制作ダンジョンエディット レベル1

解放リリース レベル1


――――――――――――――――――――


 名前が前世と同じ如月きさらぎエイジになっている。高校生の頃の姿になったのは、年齢がエイジ・マグナスと同じ17歳だからか?


 レベルは1に戻っている。ステータスは初期としてはかなり優秀だけど、所詮は1レベルだからそこまで高くない。


 それにしてもクラスが迷宮制作師ダンジョンメーカーって……そんなクラスは『ダンションズ&マジック』に存在しなかった。睡眠時間を削って最凶のダンジョンを作った俺の記憶から、メイが仕える女神がクラスを決めたってことか?


 スキルはどっちも俺の知らないモノだ。ヘルプをタップすると『迷宮制作ダンジョンエディット』はエディットツールを使うためのスキルだと解る。


 『解放リリース』の説明には『レベルが上がると新たな力が解放される』と書かれているだけだ。


 戦闘に使えそうなスキルや魔法が一切ないけど、迷宮制作師ダンジョンメーカーは生産系クラスで戦えないってことか……あれ? 経験値がゼロじゃない! ていうか……また増えた?


 俺は不意に尿意にょういを覚える。


「メイ……トイレってどこ?」


「こっちよ。私について来て」


 メイに案内された個室にはウォーターシャワー付きの水洗トイレがあった……ここって本当に異世界なのか? そういえば制作室エディットルームも涼しかったし、空調が効いている?


「メイ、他にも部屋ってあるのか?」


「ええ。一通り場所を教えてあげるわ」


 制作室エディットルームにはトイレの他にも、シャワー付きのフロとベッドルーム、キッチンと食糧庫が併設されていた。


 キッチンには冷蔵庫とオーブンレンジにIHコンロ、炊飯器まであって、冷蔵庫には新鮮な食材の他にペットボトルに入ったコーラやエナドリ、冷凍食品とアイスが入っていた。


 食糧庫には米や小麦粉に野菜や果物などと、ペットボトルに入った各種飲み物とレトルト食品にカップ麺と調味料、ポテチやチョコなどのお菓子まである。


「不思議そうな顔をしてるわね……これは全部女神様からのサービスよ。エイジ君の記憶にある前世のモノを再現したの!」


 メイがドヤ顔で説明する。これも女神が俺に与えた力らしい。所謂いわゆる隠しスキルって奴か?


 だけど服がジャージでエナドリまで用意してあるって、俺のことを引き籠もりのニートだと勘違いしていないか? ……いや、自分の部屋にいるときの俺は、だいたいこんな感じだったけど。


 俺はふと気づく。


「ところで……出口ってどこにあるんだ?」


「ないわ」


 即答かよ……つまりここはニート生活をするには最高の環境だけど、ダンジョンを創造デザインすることしかできないのか?


 俺は『ダンションズ&マジック』で自分のキャラを究極まで育てるために、ギリギリ攻略できるゲームバランスで最凶のダンジョンを作った。


 せっかく俺が作ったダンジョンがリアルになったのに、他の冒険者が攻略するのを眺めているだけで、自分は何もできないなんて……どんな放置プレーだよ!


 あ、また経験値が入った……映像に映る冒険者が魔物に殺されたタイミングで。


 もしかして……俺は迷宮制作師ダンジョンメーカーだから、ダンジョンで冒険者が死ぬと経験値が入るうつ仕様なのか?


 その疑問はステータス画面を表示しながらダンジョンの映像を見ていると、直ぐに解決した。結論を言えば、俺の予想通りの鬱仕様だった。はぁー……マジかよ?


「ダンジョンで人が死ぬと経験値が入るのは、戦乱の女神がエイジ君をダンジョンマスターに転生させようとした名残ね」


 戦乱の女神はダンジョンマスターとして俺を転生させるために、この身体を器として用意していたらしい。今の俺はダンジョンを創造デザインする以外は何もできないから、経験値を稼げないよりはマシか。


 だけど制作室エディットルームから外に出ることができないのに、レベルやステータスに何の意味があるのか?


 これはヘルプに『レベルが上がると新たな能力が解放される』と書かれていた解放リリースってスキルに期待するしかないな。

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