救えるのは
@misuzu0420
過去
第二次性徴気前の記憶は白い壁と床、天井とガラス窓がついた部屋、人が生きるための最低限の栄養が詰まった食事、外に出るなんて夢のまた夢、実験動物の生活だった。
なんの薬なのかは分からなかったけどよく色んな薬品を投与されていた。
来てひと月だった位から実験が始まった
初めは何一つ怖くなかった、薬品を投与してどんな効果が出るのか確かめる。ただそれだけ注射は元から苦手だったけど周りの大人は「大丈夫」と皆口を揃えて言うものだからそうなのだと、幼いながらに信じていたし、なにか効果が出ていた訳では無かったから。安心していた。
信じてなければ、安心していなければショックは小さく済んだのかもしれない。
ここに来て3ヶ月位の事だった今でも鮮明に思い出せる。その日は初めて副作用を体験した、酷いものだった。
吐き気、目眩、手足のしびれ、激痛が体に走ってまともに動けなくなった。
涙でよく前が見えなかったが窓の向こうに居るであろう大人に助けを求めた。
「ヒッ...いたいよ、たすけて。きもち、わるぃ..っ...ねぇ、ぃたい...。」
誰も来なかった。いや、居た。来てはいた。自分を見ているのに誰も見つめるばかりで助けようとはしない。観察されていた、誰も自分の心配などしていない、心配しているのは実験結果だと幼いながらに分かってしまった。
その実験から副作用が、キラリと光る注射針か怖くて叫んで暴れた。でも無駄だった。普通の子供よりも小さい体じゃ大人1人の力にも勝てない、人数や拘束道具なんか使われたら完全に負ける。じゃあ部屋から逃げ出せば注射なんてせず済むんじゃないかと、1度部屋に入ってきた奴に殴りかかって蹴りを食らわして、廊下に逃げ出した...がそれで終わった。あっという間に捕まって部屋にもどされた。
少し考えれば分かる事だった、抵抗なんてしてみればそれ相応の罰が下る。
自分が暴行を加えた大人に同じように殴り蹴られた、そこからどんな副作用が出るかも分からない薬をいつものように投与される。
嫌でも体に教え込まれた、ここから逃げ出す手段など力などないと。
だから、変わらないから口は閉ざして耐える事にした、身体の隅々を見られるのにも慣れて。自分や知らない誰かの血を見るのも慣れて、首にバーコードをつけられて実験番号で呼ばれるのにも慣れた。
それでも逃げ出したいと何度も思った。自分が自分であるために神に祈った。
...でも助けなんて来ない。
子供だったから手加減はされてたと思う、だから死ななかったんだと、しぶとく生き残ってしまっていたんだと。
生き地獄というのはこういうものなのだろうと思った。
そんな毎日を送っていれば勿論身体は壊れていく。
大人は僕の体を治していたが。心というものは治そうとしなかった
そのせいか記憶は曖昧なとこが多くある、何とか過ごせてきたのはある夢と思い出があったからだろう。
頻繁に同じ夢を見ていた。
夢の中の自分は視点がよりずっと低かった、昔の思い出だろうか見上げるとその人はいて、優しく笑いかけてくれる。その後抱き締めてくれて優しく優しく頭を撫でてくれる。そんな夢。
今になって考えると心を守るためか癒すためかその夢は限界に近くなると見ていたように思う。
過去に縋り付くなんてバカバカしいと今では思うがそうだとしても心の支えになっていたのは本当だった。
そんな夢を見つつ副作用に耐えていた日があった1人部屋で見られながら特に酷い副作用に耐える。意識が時々落ちて目覚めてどれくらい経ったかなんて分からなかったけど1人大人が部屋に入ってきた。
朦朧としていたから顔も声も性別すら分からなかったが大体こういう時は近くで観察する為か、実験が終わりなのかなので気にしていなかった。目をライトで照らしたり何か上の服をまくって一通り確認した後、去るだろうとぼんやり思っていたら、頭に手を置かれそのまま優しく何回も動かされた、戸惑った。これはなんだと、でも理解したあの夢と同じ 撫でられていた。
ただ優しく、痛みなんて無くて暖かい大きな手で撫でられていた。
安心したのか限界が来たのか分からなかったが意識をそのまま手放した。
目を覚ました時には1人部屋に寝かされていた。けど隣には飴玉がひとつ置いてあってここには優しい大人も居るのだと、ここで過ごす子供の僕にとっては大きな希望になった。
そうして希望に縋りつつ何年と生きながらえて、ある日突然手術を行うと言われた。薬での実験はあったが手術をする程の実験は初めてで少し身構えたのを覚えている。
だか、思っていたより簡単だった麻酔もされ寝て起きたら終わった。といった感覚だ。
不思議な事に手術をされた後、罰や副作用が酷い実験は無くなった、そして何故か大量の教材や本を渡された「勉学に努めろ」と言う事だろうか。過ごす部屋も変わり祭壇のような場所になって前より少し良い環境にはなった。
こういう環境の変化は怖かったが前よりも少し安心して過ごせそうだと心が軽くなったのを覚えている。
---------------数年後
つい昨日あれはなんの手術だったのか聞かされた。コア、神のコア...?少しまともになった生活に安心していたのに次はこれか?笑
どこまでも僕の事は実験動物としか見ていない。意思なんて人としての権利なんて何一つない。
この先、神になるしかないのだろうか。
神、カミ...
あんな モノ になるのか、僕を助けてくれなかったヤツに。
作り物の神。
嫌だ。いつまでこの地獄が続くんだう。
--------------数日後
もうすぐ僕が次コアとして動かすバーチャル空間「カノヨ街」に入れられるらしい。
姿は好きにしろと何個か候補を渡された。
姿は少し変更を加えて幼い子供の姿と今の自分に似たモノを作った。
子供は、疑われにくい。純粋で扱いやすくて、それにあの空間であればあの頃の僕より少し自由に楽しく過ごせるだろう。なんて少しの欲をいれた。
コアになっている今の人が亡くなったら次は僕の番。入れば記憶は他の人達と同じようにパスをかけられてしまうらしい。...どれくらい残っているだろうか、だけど生き残る為には絶対に目的は忘れてはいけない。
神が助けてくれないのなら。
まだ神じゃない僕が僕を救うしかないから。
救えるのは @misuzu0420
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