第5話 モンスター連合



深夜、診療所の扉が破壊された。


「クロエええええ!」


顔面キメラの美咲。

骨の塔と化した健太。

全身黄金の富豪。

脳みそが露出した元受験生。


過去の被験者たちが、化け物の姿で集結していた。


「よく来たわね、失敗作たち」


クロエは椅子から立ち上がりもしない。


美咲が無数の男の顔で叫ぶ。

「お前のせいで!お前のせいでこんな姿に!」


健太の骨が槍のようにクロエを貫いた。


心臓を、脳を、全身を。


血が噴き出す。臓器が飛び散る。


だが。


「痛いわね」


クロエは串刺しのまま、タバコに火をつけた。


「え…?」


被験者たちが凍りつく。


ズルリ。


クロエが自分で体を骨から引き抜いた。穴だらけの体から血が滝のように流れるが、傷口が瞬時に再生していく。


「私の欲望は『永遠に実験を続けること』。だから死ねないの」


富豪が黄金の拳でクロエの頭を砕いた。


脳漿が飛び散る。


だが、粉々になった頭部から、新しい頭が生えてきた。いや、2つ、3つ、4つ…


「素敵でしょう?何度殺されても、その度に増えるの」


8つの頭を持つクロエが笑った。


被験者たちは気づいた。


殺せない。


「じゃあ…苦しめてやる!」


美咲がクロエの顔の皮を剥いだ。

健太が手足を引きちぎった。

富豪が体を押し潰した。

受験生が脳を抉り出した。


クロエは叫んだ。悲鳴を上げた。泣き喚いた。


だが、死なない。


何度バラバラにされても、焼かれても、溶かされても。


必ず再生する。


「やめて…殺して…お願い…」


クロエが懇願する。


「殺してやるものか!」


被験者たちは、クロエを生きたまま解体し続けた。


1時間、2時間、10時間。


やがて被験者たちは気づく。


自分たちも、クロエを痛めつけることをやめられなくなっていた。


「なんで…手が止まらない…」


「クロエを苦しめたい…もっと…もっと!」


クロエが血まみれで笑った。


「気づいた?あなたたちの新しい欲望。『私を永遠に苦しめたい』という欲望よ」


被験者たちの体が、機械のように動き始めた。


美咲は1秒間に100回、クロエの顔を引き裂く。

健太は骨でクロエを串刺しにし続ける。

富豪は押し潰しては再生を待つ。

受験生は脳を抉っては新しい脳を待つ。


永遠に。


自動的に。


止まることなく。


「いやだ…やめたい…でも…体が…」


被験者たちも泣いていた。


診療所は、永遠の拷問部屋と化した。


クロエは死ねない。

被験者たちは止まれない。


互いを苦しめ合うことが、彼らの新しい欲望となった。


そして診療所の地下室で、田中が静かに観察していた。


「美しい。永遠の苦痛ループ。これこそ究極の欲望」


透明な体の中で、無数の欲望が共鳴している。


次は、この拷問ショーを全世界に配信する番だった。


『見たい人は、クリックしてください』


その動画のサムネイルには、バラバラになりながら笑うクロエと、泣きながら彼女を解体し続ける化け物たちが映っていた。


再生ボタンが、赤く脈打っている。


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