閑話
閑話 魔道帝国からの使者
◇ バレット専属メカニック ◇
「……まったく。専属メカニックであるボクを置いていくだなんて、なっちゃいないよアニキは」
バレットの『ルー・ガルー』が格納されている倉庫とはまた別の倉庫の中で、ドクはガラクタ箱──もとい、パーツ箱をひっくり返し、中に詰まっていたオモチャを床にぶちまけた。
目の前には
これはドクが余りパーツでこつこつ組み上げてきた、ドクのためのAG──モドキだ。
元はバレットの『フレッシュゴーレム』の予備のためにと取っておいたパーツだが、あれはほんの数日でフレッシュゴーレムではなくなってしまった。
さらに、どうやら条件付きの自己修復機能のようなものまで獲得してしまったらしく、そもそも予備パーツが必要なくなった。
それならと、ドクも自分で動かせるAGを用意するためにパーツを使うことにしたのだった。
AGはその名の通り元はと言えば敵を“強襲”するために開発された機動兵器である。
しかし、想定よりも優秀だったAGの用途は、時間と共に多能化されていき、現代では整備用AGや、民間の事業で活用されるAGも存在している。
ドクが作りたいのはその『整備用AG』である。
理想とするのは、ケモスキー社からリリースされている『コボルトメカニック』だ。
同社の傑作AG『コボルト』シリーズのバリエーションのひとつだが、メーカーに整備用として調整されているだけあり、官民かかわらず多くのユーザーに愛されている。
もっとも躯体が形になったとしても、心臓部となるエーテルリアクターが無ければ巨大な模型でしかないわけだが。
「エーテルリアクターはWizU政府直轄の研究所の独占商品だしなあ。よしんば入手できたとしても、リアクターに合わせて機体も構成しないと動かないし。機体だけ作っても意味ないのはわかってるんだけどね……」
ぶつぶつと独り言を垂れ流す。
この倉庫群はバレットの支配地域であるため、バレットがいない今ドク以外にここに近づく者はいない。
誰に聞かれる心配もないし、独り言は言いたい放題だ。
もちろんラビッシュタウンの流儀を理解できないゴロツキや、まだ理解していない新入りなどは普通に略奪目的で近づいてきたりするため、ドクを心配したグレンやフール翁が日に一度は様子を見に来ているが、彼らが来るのはたいてい昼過ぎだ。
早朝のこの時間にやってくることはない。
「──エーテルリアクターをご所望なら、お好きなものをご用意いたしますよ。ドロシー嬢」
だから、唐突に聞こえてきた、ドクの独白に答えるこの声は、有り得ないものだった。
いや、タイミングの話だけではない。
むしろその内容の方が問題だ。
特に、ドクを「ドロシー嬢」と呼ぶ人間など、スラムにはいるはずがない。
ドクは持っていたパーツをガラクタ箱に放り込み、立ち上がった。
「もっとも、そのリアクターをドロシー嬢がいじることなど、この先はもう無いでしょうけどね」
振り向くと、倉庫の入口に貴族風のスーツを身につけた男性が立っていた。
振り向かなくても誰なのかは声でわかってはいたが。
「……ジェラルド」
「お久しぶりです。ドロシー嬢。大きく……はあまりなってませんが、まあそれでもそこそこは成長なされましたね」
「私を連れ戻しに来たのですか、ジェラルド」
ドクはかけていた瓶底メガネを外し、ジェラルドを睨みつけた。
すると、ドクの薄黄色の髪は鮮やかな金髪に変化し、顔のそばかすも消え、耳の先が少し尖るように伸びた。
さらに身長も10センチほど高くなり、スタイルも女性らしくなる。
「おっと。それはあの研究所にあった変装メガネですか。そんなものまで持ち出していたんですね。前言は撤回いたしましょう。大きくなりましたねぇ、ドロシー嬢。もう立派なレディだ」
この眼鏡は別に視力矯正のためにかけていたわけではない。
「ドク」というスラムの孤児と「ドロシー」という貴族家の娘を関連付けさせないため、言わば変装の一環でかけていたのだ。
この眼鏡には、変装アイテムとして髪の色や声色、時には体型までもを変える機能がある。
もちろんマナ・マシン導入者専用の機能だ。でなければ体型を変えてしまうほどの変装は不可能である。
バレットには未装備時の姿を見られているため、大掛かりな変装はできなかった。
怪しまれないように髪色は同系色で少しくすませ、顔はそばかすを浮かせる程度に抑えていた。
その分体型は限界ギリギリまで弄っていた。具体的には、この三年分の身体の成長はすべて「無かったこと」にしておいた。
だが、こうして見つかってしまった今となっては、もうかけていても意味はない。
そんなドク──ドロシーの様子を見たジェラルドは肩を竦めた。
「神道皇国ヤマタイトには『灯台下暗し』という諺があるそうですが、そういう捜査の基本的なことさえ知らない愚かな一家のお陰で3年も無駄に時間をかけてしまいましたがね。
まったく、彼らもなんだってこんなバカでかいスラムを野放しにしておくのか。我が国ではあり得ませんよ。理解に苦しみます」
「……反社会的組織の頭領みたいな家のくせに、そういう時だけお国柄をアピールするんですね」
「お褒めに預かり光栄です。二枚舌外交は我が国の伝統ですから」
ジェラルドは慇懃無礼を形にしたかのような優雅な一礼をした。
彼はWizUの人間ではない。
海を隔てた極西にある島国、魔道帝国セプテントリオンの貴族だ。
セプテントリオンはWizU同様、概念物質『エーテル』を利用する技術が発達している国だ。
『大崩壊』の被害を最小限に抑えることができたセプテントリオンでは、各国が戦後の復興と国家の吸収合併を繰り返し右往左往している間にも技術の進歩を続けていたようで、同じエーテルを利用していてもWizUとは全く違った技術体系が確立されている。
単純にどちらが優れているという話ではない。
セプテントリオンでは、WizUで発達したエーテルの機械技術が『大崩壊』の一端を担ったと考え、マナ・マシンやエーテルリアクターを使わない文明を模索したのだ。
つまり、セプテントリオンにはエーテルリアクターは存在しない。
であるにもかかわらず、ジェラルドがエーテルリアクターをいくらでも用意できると豪語したのは、国の方針に関係なく、他国の兵器を入手するルートがあると宣言したに等しい。
このことからも、ドロシーが言った「反社会的組織の頭領」の信憑性がうかがえるというものだ。
「……マナ・マシンやエーテルリアクターなどの機械文明を否定し、国民を『遺伝子改造』なんてしておいて、私のような実験体にはマナ・マシンを投与する……。二枚舌にしても限度があるでしょう」
セプテントリオンが人間をエーテルに適応させるために選んだ手段は、遺伝子改造技術だった。
人間、いや生物を遺伝子レベルで改造し、概念物質エーテルに干渉できるよう調整する。
これはマナ・マシンというステップを一段挟むWizUの技術と比べると、エーテルに対してより強い影響力を得られるというメリットがあった。
わかりやすく言うと、遺伝子改造によって生まれたセプテントリオン国民は、ほぼ全員が超自然的な現象を起こす能力──すなわち、『魔法の力』を持っているのだ。
ただし、これには非常に大きな副作用があり、逆にエーテルからの干渉も強く受けるようになってしまうため、ごく一部の人間は肉体の形状や組成まで変異してしまい、場合によっては知性や理性すら失ってしまうこともある。
もちろん、魔法を含めたこれらの事実はセプテントリオン国外には知られていない。島国であり、大崩壊後は大陸との連絡手段がほぼ断絶されていることもあり、国家ぐるみで隠しているからだ。
ジェラルドやドロシーの実家が所属している組織『ウイッカ』は、むしろ遺伝子操作を暴走させる技術に傾倒していることもあり、セプテントリオンの中でも政府や良識人からはかなり疎まれている。
そのため必然的に反社会的組織との繋がりが強くなり、彼らを束ね牛耳るような立場になっていったのだ。
ウイッカにとっては、国の目を盗んで海外に渡り、そこで勝手に交渉や技術交流をし、国内で禁じられている機械技術を手に入れることなど朝飯前であった。
「私個人としてはマナ・マシンもエーテルリアクターも素晴らしい技術だと考えておりますよ。ドロシー嬢、貴女と同じようにね。もちろん、遺伝子改造技術も尊重しておりますが。どちらが優れているというお話ではありません。
そしてご存知の通り、その2つの技術の結晶こそが、貴女なのですよ。
──始まりの魔女、その生まれ変わりである、ドロシー・クラッターバック嬢……」
ジェラルドがここに現れた時点で、もはや逃げ場はないことはわかっている。
ドロシーは足元に静かに眼鏡を置き、ジェラルドに連れ出され倉庫跡地を去った。
★ ★ ★
遺伝子操作で生み出した検体にさらにマナ・マシンをぶちこむというのは、ガンダムで例えると、ザフトのコーディネーターをフラナガン機関がDG細胞使って強化人間にするようなものですね。
王道展開実績解除リスト
・メガネを外すと美人になる
・変身すると体型が変わる美少女
・お前、女だったのか!
・ヤバイ人体実験してそうな秘密結社
・ヒロインが悪の組織に誘拐される
・すまん、ガンダムで例えてくれ
全部いっぺんにやるな(
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