お客様は、神様です。

ただけん

プロローグ

 深夜、静まり返った満月の下。

 風が涼しい。思えば、あの日もこんな感じだった。俺の人生が変わり始めた日。もちろん、狂乱と恐慌に満ちた波乱の人生へ変わり始めた日。まあそれでよかったのだが…

 …にしても腹痛えな。


「どうしてえ…」


 変に甲高い声色。気色悪く感じたその声も、もう掠れている。


「…最後に会った時に言ったな、俺はもうお前とは違う。それが全てだ」


「僕なんか悪いことしたあ…?ひどいよお…」


「お前は悪くない。けど、お前は消えるべきだった」


「ひどいなあ…この世界なんか全部嫌いだあ…」


 ぐしゃりと地面に崩れ落ちるソレを見下ろした。

 ソレが最期、腕を振り上げた。唸るような風の音がした後、俺の視界は空中に打ち上げられた。ざっと六、七メートル。

 一瞬、都市の光が見え、俺の意識は地面に叩きつけられた。

 満月の下、影が一つ。

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