呪われた王子は最強の獣医を目指す

さとの

プロローグ

 この世で、一番ヒトを殺している生き物は、ヒトなんだよ。


 幼いころにそんな言葉をどこかで知って、「人間は怖い生き物なんだ」というイメージが、心の奥深くに根を張った。小学校でいじめられた経験も、「ヒトが怖い」という感覚を強めた。


 ヒト以外の動物は好きで、勉強もそこそこできた俺は、ヒトではない動物を診察する獣医になった。

 街中で開業するような金もコネもなかったので、産業獣医――牛や馬などの家畜を診察する獣医になって、人づきあいもほどほどに、そつなく働き、ひっそりと暮らしていたのだが。


 人生、総じて運が悪いのは生まれつきなのか。


 日もとっぷり暮れた宵闇にまぎれ、道路の真ん中でうずくまっている子猫を見つけて、


「げっ、あれは轢かれるコースじゃん」


 気づいてしまったのが運の尽き。助けないわけにもいかず、車が途切れたのを見計らって子猫を拾いあげ――。


 たぶん、俺も疲れていたんだと思う。

 ちょうど信号を曲がってくる車に気づいていなくて。

 激しいブレーキ音と、身体に強い衝撃、続いて顔面からアスファルトに突っ込んだ。全身に激痛が走り、かすれゆく視界に、子猫が歩道の茂みに逃げ込む後ろ姿を確認して。


「よかった、アイツは助かったんだな」


 そんなつぶやきと共に、意識は遠のいた。

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2025年12月22日 19:00
2025年12月23日 19:00
2025年12月24日 19:00

呪われた王子は最強の獣医を目指す さとの @csatono

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