第3話 異世界転生ってやつですか??
「俺は……死んだんですか?」
声は震えていないが、内側では何かが崩れかけていた。
男は静かに頷いた。
「その通りです。」
意外にも落ち着いていた。確信に変わった疑惑であったが、実際肯定されればもっとショックを受けるものかと思っていたからだ。
俺は死んだ。
もう一度その言葉を心の中で繰り返す。実感は湧かないが、トラックに跳ねられた時のリアルな感覚、今置かれてるこの状況がそれは嘘ではないと告げている。
では、ここは何処だ?
死ねば無になると信じていた。
だが、目の前の光景はそれを否定していた。「終わり」ではない何かが、確かにここにあった。
……あれ?これ、もしかして――
俺はある事実に行き着いた。
康太の言ってたやつじゃね?
死んだら異世界とかデュエマ世界で最強!とかあのバカが言ってたやつ。
いや、待てよ……目の前のこのおっさん、もしや神様?いや、神の使者とか?
ってことはだ。
このあと「お前に特別なスキルを授けよう」とか言って———
俺、チート能力ゲットしてハーレム冒険生活!?
でも顔はどう見てもただの疲れた中年だよな。
もっとこう、金ピカローブ着てるとか、天使の羽とか……そういう演出欲しいんだけど?
無がいいとはいったが、実際チート能力をくれるなら話は別だ。ちょっとくらい夢みてもバチは当たらないだろ。なんか特大のブーメランをくらってるような気がする、、、。
「状況はわかりました。死んだ俺に第二の生をくれるんですね?でも、ただじゃないんでしょう?魔王退治とか悪魔討伐とか、何でもやりますよ。でも流石に生身は厳しいですし〜、何かもらえます?時間停止、空間操作、瞬間移動とか欲しいですね。あ、あと圧倒的な攻撃力とか魔力量はデフォルトでつけてくれるとありがたいですね!」
さあ、神の使者様は一体何の能力をくれるのか、期待で胸をいっぱいにして男を見つめる。
「君は何をいってるんだい?」
帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「え?異世界転生でしょ?これから夢のような俺tueeeをしながらハーレム生活を送るんでしょ?」
「いや違うが?」
「魔王討伐は?」
「何だそれは」
「チート能力は?」
「そんなものはない」
「そんな冗談やめてくださいよ〜、神の使者様!」
「俺はしがない中年のおっさんだ」
「え?」
俺の中の熱が急激に冷めていくのを感じる。
まじか〜!
違かった!
恥ずう!俺恥ずう!
死にたい、
もう死んでるんだった。
前言撤回、やっぱり無がいい!
「じゃあここは何なんですか?」
「天国だよ」
「天国!?」
全く予想していなかった言葉に体が固まる。でもよくよく考えたら、異世界転生よりも天国の方が現実的にあり得るか。
「そう、死んだ者全てが訪れる国、天国さ。」
神の使者ではなかったこの男、もといただのおっさんは淡々と続ける。
「私は入国審査官ってとこかな、ここは天国の入り口だよ。死んで魂になってしまった君たちに死んだことを自覚してもらうのが私の役割だ。この世界の詳しいことはこれから案内係がしてくれる。だが最後に1つだけ確認をさせて欲しい。」
「確認、ですか?」
「そう、君は人を殺したことはあるかい?」
突拍子もない質問に唖然とする。
「人殺し?ないですよそんなの!見てくださいよこの人畜無害そうな顔、雰囲気」
ちょっと捻くれている自覚はある。だが、殺人なんてするわけがない、それくらいの常識は身につけている。このおっさんそんなに俺のこと信用ならないのか?少し心外だ。そしていつまにかタメ口になってるのも気に食わない。
「それなら問題はない。ですが気をつけて。ここでの殺人は現世のものとは比較にならないくらい重い罪になる。絶対にしないと約束してくれ。」
死んでるのに殺人というのはどういうことか?そんな疑問はあるが、どのみち殺人なんかするわけがない。おっさんに分かったと返答する。
「それならいい。では、ここでの作業は終了になります。あちらの扉から入国してください。」
急に敬語に戻ったおっさんの指差す方には扉があった。一応お世話になったので、軽く頭を下げてからその扉に向かった。
この先にどんな世界が待っているのだろうか。先ほどまでの期待は消え、替わりに不安だけが胸に残る。扉の前で深呼吸して、心を落ち着け、静かに扉に手を掛けた。
ヨーロッパの街を思わせる光景が広がっていた。石やレンガ造りの建物、クリーム色やテラコッタ色の壁。窓には小さなバルコニーがあり、花箱の赤や黄色の花が揺れている。
……天国といえば神殿とか天使とか、もっと神秘的な世界を想像していた。だが実際に現れたのは、驚くほど現実に寄り添った街並みだった。
案内係がいると言っていたが……まさか、あれか?
視線の先には旅行ガイドみたいな人が看板を掲げて立っていた。
そこに書かれていた文字を見て、思わず頭を抱える。
「死誕おめでとう! 天国案内ツアー」
……おい、ふざけてんのか。
ガイドは人懐っこい笑顔を浮かべて、両手を大げさに広げた。
「みなさ~ん、ココは死誕ツアーの集合場所デスよ〜。リラックス、リラックス!死んでも怖くないデス!」
片言とはいえ、妙に発音が良くて耳に残る。
まるで観光バスの添乗員のように、明るすぎる声で言葉を投げかけてくる。
「さぁ、こちらに並んでクダサイネ~!天国まで、ワンウェイツアー!リターンないデス!」
デスだけ異様に強調されてるが、わざとやってるのか?縁起でもない。
ガイドさんの前には、すでに二十人近くの人影が集まっていた。
俺もその中に入ろうと近づくと———見覚えのある後ろ姿に目が止まった。
心臓が、思わず強く跳ねた。
———康太?!
死亡したら天国だった件 哀野めめ @kurokekke
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