第2話 イムル村へ
なるほど、戦わずして勝つとはこんな感じなのか。
それと、弾薬は魔力生成で補給されるらしい。
魔力が減って弾が生成されるのが感覚でわかる。
盗賊たちが逃げ帰った後、盗賊の出方をうかがっていた銀髪イケメンな女性と、人質だった女の子が話しかけてきた。
「えっと、君は私たちの味方なのかい?」
「……魔獣ちゃん、助けてくれてありがとう!」
二人に話しかけられて喋ろうとした時、ふと10式戦車の状態で喋れるのだろうかという疑問が浮かんだ。
物は試しという事で人間だった頃と同じように喋ろうとしてみる。
「僕は二人の敵じゃないよ。それとお礼はいらないよ、当然のことをしたまでだから」
個人的な考えとして兵器の力は守るためにあるというのが僕の持論だ。
「そうか、よかった。……おっと、自己紹介を忘れていたね。私の名前はメルトリーゼだ。メルと呼んでくれ」
「私の名前はアミナだよ! 魔獣ちゃん!」
二人共丁寧に自己紹介をしてくれる。
僕は……僕はなんて名乗ればいいのだろうか?
まあ戦闘機やヘリ、イージス艦にもなれるのに10式戦車って名乗るのもおかしいし、人間だった頃の名前でいいか。
「僕の名前は桜葉凌兵、長いから凌兵って呼んで!」
「サクラバ・リョウヘイ? 変わった名前だね。よろしくリョウヘイ君!」
「よろしく、リョウヘイちゃん!」
メルさんとアミナちゃんに連れられてアミナちゃんの住む村に案内された。
村の人たちは最初こそ怖がったが僕が攻撃してこず、アミナちゃんを救出した存在だと知るとたちまち人気者になった。
今は車体の上に子供が乗ったり砲身にぶら下がって遊んでるくらいには人気が出ている。
しばらく子供たちに付き合っていると、メルさんが一人のおじいさんを連れて僕の元へとやってきた。
「子供たち、ちょっと村長はこの魔獣さんに用事があるからどいてくれるかの?」
村長を名乗る人物がそう言うと、さっきまでワイワイはしゃいでた子供たちは返事をして素直に車体から降りた。
どうやらかなり人望のある人物のようだ。
「子供たちと遊んでいるところすまんの。ワシはこのイムル村の村長、グリムじゃ。よろしく頼むぞ」
「グリムさんですね。よろしくお願いします。それで、一体僕にどんな御用ですか?」
グリムさんは一度咳払いをすると、おもむろに喋り始めた。
「まずはお礼お言わせてくれ。うちの村のアミナを助けてくれて大変感謝する。それで、今日はもう遅いという事でお主が寝泊まりする小屋を魔法で作ったんじゃ。大急ぎで作ったから若干粗があるかもしれんが気に入ってくれると嬉しいぞ」
どうやら僕のためにわざわざ小屋を建ててくれたらしい。
そうして立ててくれた小屋に案内された。
急いで作ったとは思えないほどの出来栄えのいい岩のドームだった。
僕の体は10式戦車だから雨に当たっても平気なんだけどジメジメするだろうから風雨をしのげるのは助かる。
「ありがとうございます! 喜んで使わせてもらいます!」
そうしてドーム内に自身を駐車する。
しばらくするとメルさんが何やら重そうな革袋を持ってこちらにやってきた。
「やあリョウヘイ君。君に渡したいものがあってここまで来たんだ。実を言うと私はアミナちゃん救出の依頼を受けたCランク冒険者でね。でもアミナちゃんを救出したのは君だからこの報酬は君が受け取ってくれ。これが報酬の銀貨十枚だ……えっと、どう渡せばいいかな?」
そう言ってメルさんは革袋をこちらに渡そうとしてくる。
……困ったな、手がないから受け取れない。
最初に兵器になれるとわかった時はとてつもなくうれしかったけど、今思うと兵器の体も不便なことが多いな……。
「あーではメルさん、私は手がないのでメルさんが持っていてください」
そうして、報酬の銀貨を持っていてもらう。
それにしてもメルさんって冒険者なのか~……きっと色々なところを冒険するんだろうな~。
「メルさん、僕、貴女について行ってこの世界のことをもっと知りたいです!」
「お! 積極的だね。そういうの、嫌いじゃないよ! じゃあ、明日村長に報告しておこうか」
そうして村長の作ってくれた小屋で深夜に振ってきた雨をしのぎながら、夜を過ごすのだった。
ちなみに兵器になった影響か睡眠は必要ないらしい。
「グリムさん、折り入ってお話があります」
翌朝、僕はメルさんと一緒に村長の家まで向かった。
すると、会っただけでグリムさんは何かを察したようだ。
「なるほど、リョウヘイ君はこの村から旅立つんじゃな?」
「はい、メルさんに付いて行ってこの世界を見て回りたいんです!」
「あい分かった。じゃが行く前にアミナに挨拶していってくれ、お主の旅の幸運を祈るぞ!」
まあ村長に言われなくてもアミナちゃんには挨拶はするつもりだったけどね。
一旦メルさんと別れ、僕一両で会いに行く。
「あ、リョウヘイちゃんだ! どうしたの?」
「実は僕、この村から旅立とうと思っているんだ。だからお別れを言おうと思ってね」
僕がそう言うと、アミナちゃんは数秒悲しそうにしながらも、すぐに満面の笑みで僕を送り出す言葉をくれた。
「そうなんだ……寂しいけど、これから先頑張ってね! 助けてくれてありがとう! 大好きだよ、リョウヘイちゃん」
そうして、アミナちゃんに別れを告げた僕は、しばらく後にメルさんとイムル村を旅立つのだった。
「リョウヘイ君、君の上に乗ってもいいかい?」
村から出てすぐ、メルさんの歩幅に合わせて広大な草原の見える街道を走っていると、メルさんが僕の上に乗りたがって来た。
「いいですよ。ただ危険なので私の中の方が安全だとは思いますが」
「わかった、そうしよう」
そうして、メルさんをキューポラの中に乗せ――
っ……! ヤバイヤバイヤバイ!?
「ごめんなさいメルさん! やっぱり乗らないでください!」
「え? なんでだい? 危険なんだろう?」
コックピットの中も触覚があるなんて想定外!?
つまり何が起きているかというと……。
「えっと……! その……メルさんの……お尻の感触がイスを通じて伝わってしまうんです!」
「ん? ああ、そんなことか。別に君だったらいいよ。短い付き合いだが君のことは信頼できると思っているからね」
え、いや、そういう事じゃなくて……!
僕が! 気にしてしまうんですよ!
「それに、目的地の町まで歩くと数日かかるからね。時間短縮のためにも君に乗っていたいのさ。ね? いいだろう?」
う……そ、そこまで言われると断れない……仕方ない、触覚はなるべく無視する方向で行こう。
そんなトラブルがありつつも、街道を10式戦車の最高速度で走るのだった。
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