日本兵器転生

自由 山明

第1話 日本兵器転生

 空を覆う大きな黒い影——その正体である巨大な竜と、その周りを飛ぶ一回り小さな竜の群れがいた。


 その竜たちは海に浮かぶ巨大な一隻の戦艦と対峙していた。

 両者は互いに攻撃の応酬を繰り返し、互角の戦いを見せている。


「主砲、レールキャノン、撃ち方用意!」


 超大和型戦艦一番艦改・天照アマテラス、それが僕の今の姿だ。

 その巨体に搭載された51cm三連装砲と、レールキャノンの砲口が空を覆うほどの大きな魔王竜を捕捉する。


 戦艦大和に比べ格段に速く回る砲塔を回転させ、砲撃の準備が完了する。 


「てぇぇぇ!」


 巨大な砲弾が発射され、敵である魔王竜を打ち破るために突き進む。

 砲弾は頑強な魔力のシールドをやすやすと貫通し、鱗を食い破るように突き破る。


『貴様あぁぁぁ‼』


 魔王竜が怒りのテレパシーをこちらに対し送ってくる。

 思えばこの世界に来てから戦うことが多かった。

 最初にこの世界に来る前は確か……。



 ◇◇◇



 やった~!

 遂に完成したぞ!

 動いて光る実寸大10式戦車(日本の主力戦車)プラモ!


 これを作るのに三年もかかった……!

 一人で黙々と作ったかいがあったよ!


 おじいちゃんが残した山奥の大きな倉庫を使って作り始めたのが最初だっけ。

 まあ思い出に浸るのもこれくらいにして早速動かしてみよう!

 後ろの脚立に立って発進を眺めるんだ!


「さて、ヘッドライトを付けてまずは前進……アレ? ちょっと待って、なんでこっちに……まさかモーターの向きを付け間違え――」


 そう言い切る前に僕は自分で作ったプラモに脚立を倒され転落し、頭を強打してしまう。


(あぁ……もっと実寸大プラモを作りたかった……F-2戦闘機にUH-60JA、それにまや型護衛艦を作る計画もあったのに……)


 そうして、大きな悔いを残しながらも僕の意識は闇へと消えて行った。


「……ん? ここは……?」


 目が覚めると何やら僕は見知らぬ青々しい草原にいる。

 草の柔らかい匂いが頭を落ち着かせ……というか視界に何やら棒がある。


 視界を動かすとそれと一緒に棒も動いている。

 というか、今僕の目の前にあるのは120mm滑腔砲かっこうほうじゃないか!


 目の前の光景ですべてを理解した。

 この主砲が目の前にあるという事は、どうやら僕はついさっきまで作っていた10式戦車になっているらしい。


 さて、自分の事を思い出してみよう。

 僕の名前は桜葉さくらば凌兵りょうへい、ただの兵器オタク、十八歳だ。


 半ば実寸大のプラモのせいで死んだのをよく覚えている。

 よし、記憶は大丈夫みたいだ、問題ない。

 さてと……。


「うおぉぉ! 10式戦車だ! カッケえぇぇ!」


 今まで抑えていた10式戦車への思いをぶちまける。

 人間の体じゃないとか細かいことはどうでもいい!

 今はとにかく10式戦車のカッコよさを堪能するのみだ。


「おぉ、この角ばったフォルムに大地を踏みしめる履体! 力強いディーゼルエンジン音! やっぱりこれが10式戦車だよね! 10式戦車って、じゅっ式って言われるけど本当はヒトマル式っていうんだよね~! 主砲は完全な国産だし、重量が他国の戦車と比べて軽いから耐久力の低い橋も渡れるし、機動性も高いんだよね~!」


 というか案外普通に喋れるものだな、どこかにスピーカーでもついているのだろうか?

 いや、これは無線機から爆音で音が出ているらしい。


 ひとしきり語ると共に、主砲を動かして興奮した後、落ち着いて状況を整理する。


「落ち着け……よし、この展開は異世界ものだろうから、何か念じれば詳細が出てくるはず……」


 詳細出ろ、もしくはステータスオープン! と念じると視界に創作物で見慣れた無機質で青白いウィンドウが出てくる。


名前:桜葉 凌兵


スキル:兵器(日本)・子機展開(上限一機)・異世界言語・魔力シールド・魔力再生・魔力稼働・魔力生成・魔力変換・アクティブ防護システム・複合レーダー


現在兵器:10式戦車


武装:44口径120ミリ滑腔砲×1

   12.7mm重機関銃M2×1

   74式車載7.62mm機関銃×1


選択可能兵器:10式戦車・F-2(戦闘機)・UH-60JA(ヘリ)・まや型護衛艦


 ほうほう、どうやら戦車だけでなく戦闘機とヘリ、護衛艦にもなれるらしい。

 僕が実寸大プラモを作ろうとしたものばかりで、控えめに言って最高じゃないか!

 

 それに自分の意志で動けるという事は自分の意志で主砲とかを撃てるのでは!?


 弾種のリストを見ると……色々弾種があるようだが核砲弾だけは素直に喜べない。

 これはどうしようもない時以外は封印しておこう。

 

 そして『魔力なんちゃらシリーズ』に関しては何が何だかよくわからない。

 まあ、とにかく今はここがどこかを調べないといけないな。


 そうして、この先に不安を抱えながらも見る限り何もなく風で草がなびいているだだっ広い草原を、ディーゼルエンジンと無限軌道の音を響かせながら走るのだった。


「は~しっかし、なにもないな~」


 穏やかな草原を走ることはや十分。

 10式戦車の最高速度で走っているがいまだに村は愚か、人すら見えない。


 ぼーっとしながら進んでいると、何やら頭(あるのかわからないが)の中のレーダー? に人と思われる生命体が複数映った。

 しばらく進み目視で確認してみると、とてもきれいでイケメンな銀髪の女性が盗賊らしき集団と戦おうとしていらしい。


 うっかり見とれてしまい、前方不注意でうっかり木にぶつかってしまう。


 盗賊らしきほうには、まだ十歳にも満たない少女の人質がいるため、戦おうとしている女性は手をこまねいているようだ。

 流石に盗賊っぽい連中の方が悪そうなので、女性の援護をすることにしよう。


「まずは発煙弾で人質を取っている奴の視界を遮る!」


 たとえ盗賊と言えどなるべく殺さないように、砲塔側面前方の発煙弾発射装置から発煙弾を発射し、混乱させる。

 

 次に、なぜか機械的につながっておらず、射手がいないのに動かせる車載機関銃を盗賊に向け指向する。


 色々ある弾種の内、対人用のゴム弾をけたたましい音を立てながら発射し、人質を見張っている盗賊を気絶させ人質を守るように前へ出る。


「て、敵だ! 大型の魔獣が一匹!」


 さすがにこれだけ暴れたので盗賊に気付かれてしまう。

 よし、これで盗賊に集中でき……!?


 よく見ると盗賊が持っているのは銃じゃないか!?

 なんだあの流線形の銃は!?

 兵器オタクの僕でも知らない種類だぞ!?


 相手が見たこともない銃を持った盗賊だという事に驚いていると、盗賊がこっちを狙って続々と銃を乱射してきた。


「う、撃て撃て! こっちには魔導銃があるんだ、大型の魔獣とはいえ一匹くらいは倒せる!」


 盗賊たちは後ずさりして若干ビビりながらも、魔導銃を信用しきっているのか、銃口が焼けるくらいやたらめったらに僕めがけて撃ってくる。


 しかし、そんなデタラメな攻撃では10式戦車の装甲には傷一つできない。

 残念ながらむなしく弾かれるだけだ。


「くそ! 何で効いていないんだ! 俺はもう降りるぞ!」


「あ、ず、ずるいぞ! 俺もだ!」


「う、うわああぁぁぁぁ!」


 一人がそそくさと逃げだすと、周りの盗賊もそれにつられて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る