第4話

やがて滞在の期限は訪れた。

心のどこかで、私も彼も同じ結論を知っていたのだと思う。


別れの日、私たちは声をあげて泣いた。涙で顔が腫れるほど泣いたけれど、最後まで一緒にいることはかえって辛く、互いに慣れるためにもう会わないと決めた。そうして物語に幕を下ろした。


突然できた空白の時間。心には穴が空いたようで、気を紛らわせようとTSUTAYAへ向かった。映画を選ぶだけでも少しは落ち着くかもしれないと思ったのだ。けれど彼と通った道を歩くだけで胸が締めつけられ、懐かしさと寂しさがいっぺんに押し寄せてきた。


店の近くまで来たとき、偶然にも彼を見かけてしまった。

別れてから、まだ一週間ほど。

隣には見知らぬ女性が寄り添い、ふたりは駅に向かって歩いていた。思わず木陰に身を隠し、早鐘のような鼓動が耳に響いた。悲しみよりも先に湧きあがったのは驚きで、心の中でただひとこと――


――切り替えるの、早。


アレクセイ。

あなたは今も元気でいるのでしょうか。ニュースでウクライナ侵攻の長期化を耳にするたび、ふとあなたの姿を思い出す。もしかしたら前線に駆り出されているのではないか、と。答えの出ない想像をしては、胸の奥がざわめく。


神戸で過ごしたあの日々は、私にとって確かにひとつの青春だった。

仕事をして、恋をして、未来を夢見た時間。あの港町の風景とともに、今も心の奥に残っている。

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神戸〜波間に溶けた約束〜 Raychell @rayraytokage

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