第2話
それからの私たちは、仕事以外のほとんどの時間を共に過ごした。
須磨の海岸では、寄せては返す波の音に混じって、互いの声が穏やかに溶けていった。
沈む夕陽が海を茜色に染めるころ、私たちは未来の形をまだ見ぬものとして語り、幼い夢をこっそり分け合った。
開業して間もないUSJでは、子どものように駆け回り、笑い声を夜空へ放った。異国のテーマパークの喧騒の中、彼の横顔を見上げると、そこには少年のような無邪気さと、大人の孤独が同居していた。
近所の海辺を散歩する夜は、街灯の光が波間に揺れて、どこか遠い港町を思わせた。彼の低い声が風に混じって届くと、そのたびに私は、ここではない場所へと心を連れて行かれる気がした。
夜になると、決まってTSUTAYAに立ち寄った。並んだ背表紙の中から選んだ一本を抱え、借りた映画を小さな部屋で観る。私は字幕を追い、彼は耳で物語を味わう。スクリーンの前で流れる二つの沈黙は、言葉の壁を越えて確かに通じ合っていた。
やがて、外国人コミュニティに交わる機会も増えた。奔放で、嘘すら冗談に変えてしまう彼らの笑いを見ていると、日本的な生真面目さを纏った自分が、どこか窮屈な存在に思えた。私は彼らの軽やかさを、少し羨望のようなまなざしで見つめていた。
お酒が苦手な私に、彼はよく「練習すれば飲めるようになる」と言った。そして夜ごとウォッカの小瓶を差し出す。ひと口飲むたびに喉が焼け、胸の奥が燃えるように熱くなった。結果はいつも惨敗。翌日を台無しにするだけだったが、彼の得意げに笑う顔を見ると、その敗北すらひとつの記念のように感じられた。
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