魔法使いのドッジボール
山田空
魔球杯
雷が轟き響く。
辺り一面を吹き飛ばす強力な魔法の打ち合い。
それは世界を救うための魔法?
いいえ――魔球杯です。
魔球杯とは、魔法を使ったドッジボール。
そして今は、その最終決戦。
ぼくはボールを持たされていた。
いやぼくはスポーツなんて得意じゃない。
ただ渡されたんだ。
どうしたらいいですか?
いや、周り見たらさ……「気にするな」って空気出されるし。
なんならみんな、ぼくに渡してくるし。
投げなかったら投げなかったで、いやそうな顔されるし。
ぼくみたいな落ちこぼれに渡すって――
やっぱり、バカにしてるんだろ。
……きっと昔のぼくなら、そう言ってたんだろうな。
でも今のぼくなら、こう言える。
このボールは、ぼくへの信頼。
ぼくならできると信じて、みんなが託してくれたんだ。
だってそうだろ?
成績にも響くような、この大事な局面で――
信頼してない相手にボールなんて渡すわけがない。
なのに、ぼくに渡してくれてる。
きっと人生なんて、そんなもの。
気にしすぎているだけで、実はそこまで悪く見られていない。
……でも、そう簡単に気持ちを切り替えられるわけじゃない。
ぼくだってきっと、そうだった。
ただ――助けてくれる人たちがいて。
繋がるボールがあって。
だから今、ぼくはこのボールを投げられる。
それだけで、もう十分だ。
目をつむる。
ぼくはただボールを広い手を沿える。
そのとき周りにみんなの幻影が見えた。
ゴリラみたいに筋肉むちむちで制服がみちみちいってるような筋肉だるま
花魁みたいにお色気をだしまくるお姉さん
煙くさいたばこを吸いながらただ静かに生徒の心に寄り添える教師
みんなが笑う姿が目に浮かぶ。
いいね最高だ。
ぼくがボールから手を離す。
そのときぼくの記憶はボールを離すように流れ出てくる。
落ちこぼれだと思っていた過去
みんなに理解された過去
そんなありきたりで当たり前なつまらない話をしよう。
……そうだな。
最初は、ぼくが一人で壁当てしてたときの話でもしようか。
魔法球を投げても、壁に当たるたびに爆発して。
そのたびに教師に怒鳴られて、みんなに笑われて。
「お前、魔法のコントロール下手すぎだろ」って言われて、
ぼくはただ、壁を見つめてた。
あのころは、ボールを“繋ぐ”ことなんて考えもしなかった。
ただ、誰にも渡らないボールを、ひとりで投げていた。
でもそんなぼくに話しかけた変わり者の筋肉だるまがいた。
「よおっなにしてんだ?」
「別にただ1人寂しく投げていたそれだけですよ」
「……そうか」
なぜかそのあとどこかにいくこともなくずっとその場にいた。
「なんですか」
「いやなんでもねえちなみに俺の好物はバナナだ」
「そんなの知りませんよ」
「そうか………あと木登りが好きだ」
「木登りが好きでバナナが好きな筋肉だるま……ゴリラじゃねえか」
「ウホッウホッその通りだぜ」
笑いながら胸辺りをパーで叩いてみせた。
きっとゴリラのドラミングの真似だったんだと思う。
好きでもないやつに絡まれるなんざヤンキーにカツアゲされているような気分だった。
だが今思うとさ気にかけてくれていたんだよ。
でもそれはなんだか押し付けがましく感じてしまった。
きっと寄り添うというのはそれだけ難しいことなのだと思う。
でもこのときのぼくはそんな寄り添いから言葉をこぼしていた。
「なあぼくはどうするべきなんだバカにしてくるやつらをぶん殴ればよいのか?
いやわかってるんだよ叶わないのは」
「そうやって悩むのはいいことだがそれでじぶんの強みすらなくしてしまったらダメだ」
「ぼくの強みってなに?」
「さあな」
「もう適当いわないでください。
ぼくのことなんてなにも知らないくせに」
「人間なんて誰も本当の意味で他人を知っちゃいねえよ」
「そんなことをいっているんじゃ」
「良いんだよそんな雑で」
「なんでそんなことをいいきれるんですか」
「そんなもん俺がそうありたいからだ」
「あははおかしなことをいいますね」
「おかしいか?」
「ええおかしいですよふつうはそんなこと言いきれませんから」
「まあそうかもな」
ぼくたちの間には確かに友情が芽生えていた。
でもその友情に迷いがなかったのかと言えば嘘になる。
彼は明るいぼくは暗い
そこには大きな差がある。
でもその差を埋め立てるにはなにをすればよいというんだ。
そうだ、ゲームしよう。
ゲームは心を繋げるにはやりやすい行為だ。
モリモリ冒険ハンター
略してモリハン
これは冒険バトルファンタジーの皮を被ったグルメゲームだ。
そう森の中にあるモリモリたくさん料理を食べながら冒険するハンターたちのゲーム
このゲームは料理のビジュアルがすごく旨そうなのが強みだ。
だからこそこれはパロディーだとかパクリだとか決してそう言ったものではない。
そう決して有名ゲームをパックったゲームが人気でたあとかではない。
偶然省略した名前がそうなったそれだけのことだ。
まあそんなゲームの繋がりだったり
魔法を使ったドッジボール大会を目指すため
同じ目標に向かっていくことで終結していく友情もまたあった。
だがその友情もまた歪んでいた。
じぶんの価値観の押し付けあい人に言っておきながらじぶんは全く出来ていないとか
魔球杯の優勝
じぶんの力で刈り取る結末
後悔しないだなんてことばはぼくは嫌いだ。
どれだけ頑張ろうがどれだけ結末がよかろうが後悔するときはする。
そう言う人生を送るってのもまた人生よ。
だれが英雄かなんて現実にはない。
あるのはだれが生きたかだれと一緒にいたかどういうことをしたかそれだけだ。
その中に偉人だとかそう言ったのがあってそれを英雄だと誇張表現されるそれだけのことだ。
だってそうだろ?
勇者とか英雄だとかかっこいいもの望んでもあるのは社会の歯車か人を指導しているふりして支配したいだけの変態だったり
世の中なんざくそばかり
だってほらかっこつけたら必死に皮を被ってスッ転ぶのが人間というものだ。
かっこつけるとくそださいのでかっこつけないようにしたい。
でもそれはそれでよく見られたい。
そんな矛盾した感情を抱えてるんだよ。
それでいつも後悔してるんだよ。
女と良い感じの雰囲気なっても勇気出せずへたれて女とられて後悔してとかよくあるじゃん。
そう言ったもろもろを乗り越えてそれでも引きずるから後悔という。
後悔後悔うるせえって?
その通りだバカヤロー
モリハンしかり社会批判しかりゴリラしかりこの物語で伝えたいことなんざだれでも言えることばかりだ。
だがなひとつだけ言わせてくれ
ふざけてえ
本当はぼっちじゃなくてボケ倒してえのよ
それでたまにツッコミしてえええええ
でもそう言うキャラじゃねえしとかぼくが言ったところで冷めた空気が流れるだけだとか言い訳して友情を逃しかけてた。
じぶんを批判するのはじぶんに近いこと言ってるやつらだと思えばよい。
なんなら見下しちまったらよいんじゃねえか
えっくそやろーじゃねえかって?
その通り人間ってのはだいたいがくそという名前の悪魔を心にしまってるんだよ。
でもダメだから隠してる。
本当は人間なんざなによりも醜いくせに
醜いことがよい?
うんなわけあるか
醜いことはよくねえことだ。
でもなその繋がりまで否定したらダメじゃねえか
そんなことをあのアホ教師とゴリラと花魁に教えられた。
目をつむったあとぼくは投げた。
魔法が放たれた。
その魔法の名前をぼくは知らない。
知っているのは魔球杯でぼくたちが勝利したという事実
つまらなくてそれでも心温まるようなぼくの物語
だれも知らなくてもよい。
でもそうだなきっといつかだれかが知るときがくるならこの物語に魔法使いのドッジボールだなんてタイトルをつけてみたいな。
だれも知らないぼくだけの物語に
……いや違うな。
だれも知らないぼくたちだけの物語だ。
ぼくはみんなの方を見るその後笑う。
「みんな」
ぼくが手を振りみんなもその姿を見て笑う。
抱き合いながらもぼくたちはただ涙を笑いを交わしあった。
魔法使いのドッジボール 山田空 @Yamada357
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