第2章:粘り強さの遺産

クレッタ村の朝はいつも、海面に揺らめく陽光で始まる。小さな波が岸辺に打ち寄せ、潮の香りと心地よい空気の温かさを運んでくる。出航準備に追われる漁師たちの喧騒の中、茶色の髪の少年がロープの束と修理用の釘の入った籠を抱えて小走りで歩いている。


シエルはいつものように、困っている人を助けながら日々を過ごしていた。


魔法の才能を欠いた生まれだったにもかかわらず、シエルは村人たちに愛されていた。村人たちは知っていた。シエルは魔法の才能こそないものの、はるかに貴重なもの、つまり決意と善行への意志でそれを補っていたのだ。


彼女の父親、ダーツはセザニニ国からの移民でした。そこでは、魔法を持たない人々は人間以下とみなされ、召使、さらには奴隷になることを強制されていました。


デルツはその運命を拒絶した。故郷を離れ、ベルネス大陸を旅しながら、自らの手で苦労して暮らした。旅の途中、バンクーレンの地で、魔法の漁網を巧みに編む心優しい女性、リセと出会った。


しかし、二人の幸せは長くは続かなかった。リーゼがシエルを身籠っている間、バンクーレンは血なまぐさい反乱に巻き込まれていた。王の実弟が王位に反旗を翻したのだ。幼い家族を守るため、ダーズはリーゼを連れて国境を越え、ブイテンゾルグ王国南部の海辺の村、クレッタに定住した。


シエルは父から決して諦めない意志を受け継ぎ、母からはどんな些細なことにも粘り強く取り組む姿勢を受け継いだ。魔法の力を持たない二つの遺産――それでも、ほとんどの呪文よりも強力なのだ。


その日の午後、クレッタの小さな港。海風に軋む帆柱の間から、太陽が明るく輝いていた。


「シエル!あの箱を船に上げてくれないか?」と、濃くて優しい口ひげを生やした港湾長のノックおじさんが叫んだ。


「はい、おじさん!」シエルは元気よく答えると、船着場へと駆け出した。


彼はかがみ込み、スパイスと塩漬けの魚が詰まった大きな木箱を抱えた。息を殺して小さな肩に担ぎ、船のタラップへと慎重に上っていった。船員たちは驚いて見守った。あんなに小さな子供が、身体を強化する魔法の助けもなしに、あんなに重い荷物を上甲板まで運んだとは。


「あの子は本当に勤勉だね」と、船長がノックおじさんに呟いた。


「もちろんだ」とノックはシエルから目を離さずに答えた。「彼がいなかったら、この港の多くの部分が放置されていただろう。どんなに困難な仕事でも、彼は決して断らないんだ。」


「でも…残念だな」と船長は静かに言った。「こんな世界に魔法の才能もなく生まれるとは…」


ノックおじさんは深呼吸をし、視線を和らげた。「ああ…世の中って本当に不公平なんだな」


少しして、シエルが額から汗を流しながら彼らの前に立っていた。


「おじさん、宝箱は甲板に置いておきました。他に何かご用はありますか?」


「いいえ、もう結構です、シエル。今日はご苦労様でした」ノックは微笑んで言った。


彼はポケットに手を入れ、銀貨を数枚取り出しておじさんに差し出した。しかしシエルはすぐに首を横に振った。


「いえ、おじさん。ただ手伝いたいんです。報酬のためではなく、喜んでお手伝いします。」


その言葉は、水面に映る午後の陽光のように輝く、素朴で純粋な笑顔とともに発せられた。


ノックおじさんと船長は顔を見合わせ、しばらく沈黙した。


「では、失礼します。今日はまだ手伝うことがたくさんあるんです。」シエルは手を振りながら言い、桟橋を小走りで去った。


ノックおじさんはくすくす笑いながら首を振った。


「あの子は…いつもそうだ。手伝ってはくれるが、いつも報酬を断るんだ。」


「そういう子は珍しいな」船長も微笑みながら付け加えた。


「ああ」ノックおじさんは優しく答え、マストと港の波間から遠ざかるシエルの小さな足取りを目で追った。「珍しい…そして貴重な子だ。」


シエルは走り続けた。その目には海の光が映っていた。老婆の水を運ぶのを手伝い、若い商人の馬を引いて、岸辺で遊ぶ子供たちに挨拶をした。


彼の動きには魔法はなかった。光も、呪文も。

しかし、一歩一歩が小さな奇跡を放っていた。誠実さ、優しさ、そして、まるで彼から閉ざされたかのような世界の中でも、進み続ける意志。


そして、彼が気づかないうちに、遠くで風が東の森の木々を優しく吹き抜けていた。そこには昨日のささやきが今も響き渡り、彼の到着を待っていた。

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